コロナウイルスが明らかにした「エビデンスに基づく医療」の虚構

2020年09月29日 11時00分57秒 | 医科・歯科・介護

医学はこうして統計学をハッキングした

大脇 幸志郎 プロフィール

医学はこうして統計学をハッキングした医学はこうして統計学をハッキングした

崩壊する医学統計

2019年に大ヒットした『FACTFULNESS』という本がある。2018年には『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』、2017年には『「原因と結果」の経済学』と、統計を通してものごとを見ようという本には安定した人気があるようだ。

この3冊には、どれも著者が医師だという共通点がある。

どうも医師は統計を絶対視しがちなのかもしれない。あるいは、そういうふるまいを医師に期待する、何かの需要があるのかもしれない。

たしかに医学の論文や教科書には統計がたくさん出てくる。「エビデンスに基づく医療」(Evidence-based medicine)という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。詳しい人なら、ランダム化比較試験とかメタアナリシスという言葉をある程度説明できるかもしれない。医学は統計学を取り込むことで新しい時代を迎えたとされる。

しかし筆者は、大多数の医師はそれほど統計を信用していないと思うし、統計を使いこなすことが優秀な医師の条件だとも思わない。

そもそもほとんどの医師は学者ではない。学者ではないから、未確定な仮説をよく知っている必要はないし、自分の手で検証しようとするべきでもない。

そして以下で見るように、医学統計は客観的とか科学的というイメージからはほど遠く、抜け道だらけ、問題だらけだ。その結果、いまや「エビデンスに基づく医療」のコンセプトそのものが崩壊しようとしている。

この記事は全3回にわたって、医学における統計の扱われかたの変遷と、その結果として生まれたモンスターのような統計ハッキングの技法のいくつかを紹介する。

医学統計といえば「ランダム化比較試験」

すべてはRCTから

統計のハッキングについて説明する準備として、まずは素朴な統計学の説明をいくらかしておこう。医学統計の手法は無数にあるが、そのうち特に重視されているのがランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial; RCT)だ。簡単に言ってこういうことをする。

 1. ほどよい数の患者を集める。
 2. 患者をランダムに2グループに振り分ける。
 3. 一方のグループにはある薬を飲ませ、他方には飲ませない。
 4. 薬を飲んだグループのほうがよく治っていれば、薬が効いたと言える。

この説明は極限まで単純化したものだ。実際には心理的な効果を想定してニセの薬(プラセボ)を飲ませたりもするし、評価に先入観を与えないために二重盲検法を使うことも多い。そういう細かい話に興味がある人は医学統計の教科書を読んでほしい。高校数学の確率と統計を理解していれば十分読めるはずだ。

ここでは話を続けるために、「RCTはきわめてよくできた研究方法で、医学における統計はほとんどがRCTを軸に考えられている」と覚えておいてほしい。

RCTのアイディアがいかにシンプルで力強いかはこの記事ではとても書き尽くせない。ある意味では誰でも思いつきそうなことでもある。だからRCTの歴史は長い。

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聖書にある臨床試験

旧約聖書にもRCTに近い実験をしたという話が出てくる。

ダニエルは、侍従長が自分たち四人の世話係に定めた人に言った。

「どうかわたしたちを十日間試してください。その間、食べる物は野菜だけ、飲む物は水だけにさせてください。その後、わたしたちの顔色と、宮廷の肉類をいただいた少年の顔色をよくお比べになり、その上でお考えどおりにしてください。」

世話係はこの願いを聞き入れ、十日間彼らを試した。十日たってみると、彼らの顔色と健康は宮廷の食べ物を受けているどの少年よりも良かった。それ以来、世話係は彼らに支給される肉類と酒を除いて、野菜だけ与えることにした。(ダニエル書1:11-16、新共同訳)

10日くらい肉を食べなくても元気でいられることのみごとな証明だ。ダニエルの実験はランダム化の手順を踏んでいないので、ダニエルたち4人がもともと宮廷の少年よりもたくましかった(実は10日間で4人は弱っていたが、それでも宮廷少年よりは元気だった)かどうかが気になるのだが、「肉を食べても、食べなくても、元気でいられる」という結果はわかりやすい。

ずっと下って1747年には、ジェイムズ・リンドが壊血病の治療法を当てずっぽうに6種類用意したうえ、RCTに近い方法で互いに比較し、偶然にも引き当てていたオレンジとレモンが正解だったことを確かめた。いまではビタミンC不足が壊血病の原因だったことがわかり、壊血病で死ぬ人はいなくなった。

現代もよく言及されるのが1948年の研究で、こちらは肺結核に対する抗生物質ストレプトマイシンの効果をRCTで確かめた。ストレプトマイシンはいまでも結核の治療に重要な役割を持っている。

さて、こんなふうに続けていくと「科学的な手法が周知され普及したことによって医学の進歩も促され、みんなが幸せに…」という物語が見えてくるのだが、それは事実の半分でしかない。残り半分に目を向けてみよう。それは「なぜ医学はRCTを必要としたのか」と問うことだ。

試験は進歩ではない

そもそもRCTが確立するより前から医学はあった。

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ヒポクラテスの『古い医術について』では、食事療法を中心としたさまざまな治療法が題名のとおり「古い」時代から次々と新しく考案されてきたことが記されている(なお脱線だが、この本では食事療法の発達の歴史が進化論そのものと言うべき枠組で説明されている点も興味深い)。RCTなどなくても、人は新しい治療法を思いつくものなのだ。

RCTにせよほかの方法にせよ、臨床試験はあくまで何かを試すものだ。何かを作るものではない。臨床試験よりも先に発明がある。試験をいくらやっても発明は増えない。 つまり、RCTなどの試験の技法が「医学の進歩を促した」とする説明は、かなり多くのことを省略している。

有効なものが試験で有効と証明されても、効果が増えるわけではない。試験がなければ勘で使いはじめるだけのことだ。実際、リンドがレモンとオレンジを試そうと考えたのはただの勘だ。

むしろ試験によって無効と証明された治療が廃れることは、副作用を減らすとか、資源を無駄遣いしないという観点で、いいことだろう。同じように、RCTによって無効な治療をはやばやと見限れば、研究の資源を効率的に配分できるかもしれない。

たとえばストレプトマイシンよりも先に、サノクリシンという薬が二重盲検法RCTによって結核治療に試されている。サノクリシンの無効が証明されたことで、研究者たちはいつまでもサノクリシンへの空疎な期待にすがりつくことなく、新しい治療薬を探そうと考えることができた。

考えてみてほしい。ストレプトマイシンがRCTで試されていなければどうなっただろう。以前からの流儀に従えば、ストレプトマイシンを「どうやら効いていそうだ」という雑な観測に基づいて使い続けることはできた。そして、それは正しかった。

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対して、サノクリシンがRCTで試されていなければどうなったか。

次の節で挙げるとおり、結核患者の経過は個人差が大きい。だから、サノクリシンがいかにも効いていそうに見える患者はいたはずだ。そして医師はサノクリシンを使い続けただろう。「著効例が報告されている」と自信満々に。そして、ストレプトマイシンが登場したときには「サノクリシンがあるのだからこんな得体の知れない薬は要らない」と言ったかもしれない。いや、ストレプトマイシンを開発することすら思いつかなかったかもしれない。 歴史上の意義があった試験はどちらだろうか?

こうした意味では、試験は無効を証明したときにこそ真価を発揮する。

学校の勉強にしても、試験問題を解くことで成績が上がるわけではない。できなかった問題を復習することで次にはできるようになる。復習をしないで問題ばかり解いていても進歩はない。試験とはそういうものだ。

ストレプトマイシンにはなぜRCTが必要だったのか

試験の意義は医学の「進歩」に対して間接的なものだ。にもかかわらず、臨床試験の手法は近年著しく発達し、ますます重視されるようになっている。特に、新薬の承認を求める過程ではRCTがほとんど必須とされる。

なぜRCTなのか。なぜこんなに洗練された手法が必要なのか。

たとえば、ストレプトマイシンはなぜRCTで試されなければならなかったのか。この試験を報告した論文にその理由がはっきり書かれている。

肺結核の自然経過は実際のところ非常に多様であって予想がつかず、数人の例で新薬を使ったあとに改善または治癒があったという証拠は、その薬の効果の証明として受け入れられない。

薬を使おうと使うまいと、肺結核は急に悪化することも、そうでもないこともある。だから、薬を使ったあとの人が元気で生活していたとしても、薬の効果が証明されたとはいえない。これは医学統計の教科書でも最初に出てくる単純な論理だ。

そういう条件のもとで薬の効果を判定するには、より洗練された手法が必要だ。それが対照(コントロール)を置くということだ。つまり、薬を使った場合と使わなかった場合を比較する。さらに、その比較が偶然の個人差を見ているわけではないと言えるように、十分な人数を集めて平均を取る。

言い換えれば、ひとりひとりの患者から見て、ストレプトマイシンは効いているのか効いていないのか、自然な個人差と見分けられない。いわば、全体としては微妙にしか効かない。だからRCTが必要だった。

医療関係者が「効かない」という言葉に過敏反応するといけないので強調しておくと、筆者は「ストレプトマイシンは効かない」などとは言っていない。まして「ストレプトマイシンは要らない」とも言っていない。

前述のとおり、ストレプトマイシンは現代にあっても結核治療戦略の中で欠かせない薬だ。しかし「欠かせない」ということは「結核をピタリと治せる」という意味ではない。 我々は結核に対して、せいぜいストレプトマイシンぐらいの薬しか持っていない。何もないよりははるかにマシだが、それでも毎年世界で100万人を超える人が結核で亡くなっている。

劇的な薬に厳格な試験は必要ない

ストレプトマイシンのように、効果が小さい場合にこそ、試験の方法をより厳格にする必要がある。真の効果がノイズに紛れてしまうからだ。

逆に言えば、劇的な効果には厳格な試験など必要ない。

たとえばある人が死んだ人を生き返らせたとする。「対照群が報告されていない」と指摘するべきだろうか。あるいは、「対象者が偏っている」と指摘するべきだろうか。それとも「n=1では何もわからない」と言うべきだろうか。

医学誌『BMJ』は毎年ジョーク論文を載せることで有名なのだが、2003年には「パラシュートが死亡や負傷を防ぐ効果はRCTで証明されていない」という内容の論文を載せた。

例が極端すぎると思うかもしれない。たしかにRCTの意義をかすませてしまうほど劇的に効く新薬にはめったに出会えない。しかし、まれだとしても現実に存在する。

リンドの壊血病の試験は、よく計画された試験ではあったが、オレンジとレモンを食べた患者はたったの2人だ。統計学を覚えはじめた人なら「統計的に有意とは言えない」と言ってしまうかもしれない。リンドを感動させたのは、効果の大きさだ。

最近ではハーボニー®配合錠(一般名レジパスビル・ソホスブビル合剤)がC型肝炎ウイルスを排除する効果を試した試験が、RCTの形式をとってはいるもののすべての対象者に試験薬を飲ませるというもので、「薬がなかった場合」「既存治療のみの場合」という意味での対照群はない。それでもC型肝炎ウイルスが100%近く排除されたという結果はほとんど奇蹟と言いたいほどのもので、既存治療のインターフェロンでは到底及びもつかない。

デュピクセント®(一般名デュピルマブ)もアトピー性皮膚炎に対して驚くほどの試験結果を残している。ほかの薬と直接比較する試験をしなくても、デュピクセントのほうがよく効きそうだとわかる。だからこそ、2週間ぶんの薬価が6万円以上(執筆時点)という破格の扱いを許されているのだろう。

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厳格な試験は小さい効果を見分けるためにある。よく効く薬は断片的な情報からでも「効く」とわかるし、微妙な薬はしっかり調べなければ、何かのノイズを効果と勘違いしてしまうかもしれない。

試験の人数もここで言う「厳格」さに関わっている。人数が多いほど細かい差を見分けられる。だから論文か何かに「大規模臨床試験で判明した」と書いてあったら「非常に細かい違いであった」と読み替えておおむね問題ない。

ストレプトマイシン以後、臨床研究の方法はますます厳密になり、試験規模はますます拡大してきた。研究手法の発達は、すなわち、よく効く薬が出尽くして、細かい効果に注目してやらないと生き残れない薬ばかりが続々と作られるようになったからだともいえる。

製薬産業の転倒したインセンティブ

勘がいい人は「おかしいのではないか」と思っただろう。そう、おかしいのだ。

薬の試験というのは、プロジェクトのバリューが大きそうな場合には低コストでできるが、バリューが小さそうであればあるほど高コストになる。

だとすれば、普通の事業なら「ある程度大きなバリューが見込めなければ手を出さない」と判断されるはずだが、現実には以下で説明するように、微妙な薬のためにすさまじい知恵とコストが投入されている。

ここには「微妙な薬のほうがよく売れる」という現象が関わっている。抗菌薬は細菌を攻撃し、うまくいけば病気を治す。治れば薬はもう要らない。高血圧の薬は血圧を下げるが、薬をやめれば血圧はまた上がる。高血圧が治らないからこそ、高血圧の薬は一生飲む薬になり、ビッグビジネスになる。糖尿病の薬、コレステロールの薬、尿酸値の薬、胃薬、認知症の薬、「血液サラサラ」の薬、骨粗鬆症の薬、めまいの薬、腰痛の薬……どれも治らないからよく売れている。

製薬企業にとってのバリューとは、病気が治ることではなく、薬が売れることだ。だとすれば、売れそうな薬に対して、たとえそれが微妙にしか効かない薬だろうと、コストをかけて効果を証明してやることは、理にかなっている。

早合点して「そうか、製薬企業は患者を商売の種としか考えない金の亡者なのか」と思わないでほしい。

営利企業が売上を追求するのは当たり前のことだ。安定した収益があって事業を継続しなければ、多くの人が必要としている薬を作り続けることもできないし、ハーボニーやデュピクセントのようなすごい薬を開発することもできない。だいいち、製薬産業でお金が回っているということは、それだけ多くの従業員の生活を支えているということでもあるし、景気に貢献しているということでもある。

製薬産業を責めるなら資本主義そのものを責める覚悟で臨んでほしい。

きっと製薬企業としても、治せる薬を作りたいのだろう。そんな薬はめったにできないだけのことだ。問題は微妙な薬を救出するための技術が発達しすぎ、とんでもない副産物を連れてきたことにある。

微妙な薬が造られ続けるワケ

新薬は2年寝かせろ

ひとつ補足しておこう。「厳格な試験は微妙な薬のためにある」という点はしばしば逆方向に誤解されている。相当詳しいはずの人ですら、たとえばこんなことを言ってしまう。

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中国からはカレトラ群45人と比較してファビピラビル投与群35人ではウイルス消失時間が短縮され、画像所見の改善も早かったという80人規模の臨床研究が発表されています。この結果だけ見ると「ファビピラビルいいじゃん」という解釈をしてしまいがちですが、症例の数も多くありませんし、患者さんをファビピラビル治療群とカレトラ群とに割り付けるランダム化もしていませんし、どちらの薬剤が使用されているか患者にも主治医にも分からないようにする二重盲検も行われていません。(忽那賢志「アビガン 科学的根拠に基づいた議論を」。強調は引用者)

症例の数が多くなれば、現実にはないも同然のわずかな効果を検出してしまうことはあっても、逆はない。だから症例数が少ないことは「一見差があるように見えるが、実は差がないかもしれない」と考える理由にはならない。

もっと確信に満ちた人もいる。

「対象者の数(n)さえ増やせばどんな些細な違いにも統計的に有意差を出すことができる」ことは前述のとおりであるが、その実例は世の中に出版されている論文のなかではきわめて少数だ。些細な違いに有意差を出すためには、膨大な数の患者を対象にしなくてはならず、膨大な労力とお金が必要となるからだ。ところが逆に、nの数が少ないばかりに、本来は臨床的な意義があるのに、統計的に有意差が得られていない研究論文ならば、星の数ほど存在する。(野村英樹+松倉知晴『臨床医による臨床医のための本当はやさしい臨床統計』、143-144ページ。強調ママ)

この著者たちはフラミンガム研究という有名な研究を知らなかったのかもしれない。ほかにも無駄に膨大なデータを作ってしまったために不毛な論文を量産している研究といえば、NHANESとかNurses’ Health Studyとか、それこそ星の数ほど存在する。

ただし、まれな副作用に注目した場合には、話が逆になる。こんなふうに。

リリー社は自社でおこなった臨床試験――3000名以上の患者を動員した試験――を再考察して自殺行為について調べ、その結果を『英国医師会誌』(BMJ)で発表し、プラセボ投与群に比較して、プロザックのリスクの増加はまったく見られなかったと主張した。しかし、その論文のど真んなかに位置していたのは、次のまぎれもない数値だった――自殺行為に及んだのは、プロザック投与群1765名のうち6名、プラセボ投与群では569名のうち1名。(デイヴィッド・ヒーリー『ファルマゲドン』、330ページ)

リリー社は嘘を言っているわけではない。自殺者の割合は0.33%対0.17%で、2倍違うようにも見えるが「569名のうち1名」がたまたま2名ではなかっただけかもしれないので、統計的に差があるとは言えない。

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しかし、どうも怪しい。薬の副作用で自殺したくなるかどうかは重要だから、まれだとしても、もっとはっきりさせたくなる。どうやって? 人数を増やすのだ。

深刻な副作用はまれにしか現れない。だから、深刻な副作用を検出するには大規模で厳格な試験が必要になる。

この観点からすれば、新薬の承認審査のために行われる試験は、効果を判定することに最適化されているから、まれな副作用を検出するには対象者数がまったく足りない。

実際に、承認され発売されてからしばらくして深刻な副作用が見つかる薬は珍しくない。最近では2019年に、乳癌治療に使われるベージニオ®(一般名アベマシクリブ)による重篤な間質性肺疾患の症例が報告されていて、死亡に至った例もあるとして、製造販売元や厚生労働省から注意喚起がなされた。

一般に使われるようになってからが、副作用を知るための本番なのだ。

そこで、開業医などのあいだでは「新薬は2年寝かせろ」とか「3年寝かせろ」という格言がある。いちはやく新薬を使って論文でも書こうという立場ならともかく、地道に診療を続けるためには新薬のリスクを冒す理由がないのだ。既存の薬で昨日までうまくやれていたのだから。

同じ理由で、筆者の意見としては、新薬を一般向けのメディアが取り上げることは非常に危険であり、伝える人が「たとえ臨床試験では検出できない頻度で致死的な副作用があったとしても、現在報告されている効果が明らかに上回る」と確信しているのでなければ相当の注意を要する。まして、まだ承認もされていない、臨床試験の結果も出ていない新薬候補に期待を高めるなど言語道断だと思う。

とはいえ、薬の意義はまれな副作用よりもまず効果で決まる。よく効く薬なら多少の副作用があっても使うだろうし、効かない薬はどんなに安全でも役に立たない(気休めとして使えるという面もあるのだが、話が複雑になるので省く)。

だから効果の面から言って、臨床試験の規模(サンプルサイズ)は期待する効果にちょうど合うように計算して計画するべきであり、大きすぎる試験はあまりに細かい効果を拾ってしまう。同様に、細かいバイアスを徹底して最小化しようとする試みは、そもそも細かいノイズに紛れてしまうような細かい効果を争うことを自明のこととして前提し、「効果はあったとしても小さい」という観点を遠ざけてしまう。

その結果、厳格な試験は微妙にしか効かない薬を生き延びさせてしまう。(つづく)


「あやしい臨床試験」と「後出しじゃんけん」で作られる薬の効果

2020年09月29日 10時43分47秒 | 医科・歯科・介護

9/29(火) 9:01配信

現代ビジネス

写真:現代ビジネス

 現代医学において統計は非常に重要とされる一方、濫用されてもいる。この記事は全3回のシリーズでその状況の一端を取り上げる。

【前回の記事】コロナウイルスが明らかにした「エビデンスに基づく医療」の虚構

 前回は、医学における統計に対する誤った期待があること、その例として、試験は無効を証明するためにこそあること、厳格な試験は効果の小さい治療のためにこそあることを挙げた。

 前置きがずいぶん長くなったが、ここからようやく統計のハッキングの話ができる。身近な例を取り上げよう。

ゾフルーザとはなんだったのか

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 2018年末から2019年初のインフルエンザシーズンに話題になった、ゾフルーザ®(一般名バロキサビルマルボシキル)という薬を覚えているだろうか。1回飲めば治療終了という便利さもあって一躍人気になったのだが、ウイルスに耐性を作りやすいという弱点があった。

 なのになぜか人気爆発して多くの人に使われた結果、調査によってはタミフル®(一般名オセルタミビル)など既存の薬よりも耐性株数の割合が大きいと報告されるほどになった。そして2019/2020シーズンの売上は前年から98.4%減となった。

 かつてシンメトレル®(一般名アマンタジン)というインフルエンザの薬があったのだが、耐性ウイルスが広まった結果、いまでは使われなくなった。ゾフルーザも同じ道をたどるのだろうし、2018/2019シーズンは史上一度だけゾフルーザが使われた愚行の冬として記憶されるだろう。

 では、ゾフルーザはなぜ、耐性化という弱点にもかかわらず、あんなに人気になったのだろうか? 
 たしかに1回飲めば終わるのは便利だ。また、単に「新しいものはいいものだ」という漠然とした期待もあったろう。加えて見逃せないのが、ゾフルーザがテレビで繰り返し取り上げられ、あたかも既存の薬よりもよく効くかのような空気が醸成されていたことだ。

 ・インフル新治療薬ゾフルーザは1回のむだけ(2018年11月8日)
・インフルエンザの季節到来! 猛威と戦う「塩野義製薬」:カンブリア宮殿(2019年1月24日)
・猛威インフルエンザに、1回飲むだけの新薬登場:読むカンブリア宮殿(2019年2月3日) 

 これがいわゆるステマに当たるかどうかはこの記事では追求しない。製薬企業の不正なマーケティングについても踏み込まない。この記事が目指すのは、製薬企業の悪を暴くことではなく、あくまで医学統計のうちにある技術的な困難を周知することだ。

「あやしい臨床試験」と「後出しじゃんけん」で作られる薬の効果
9/29(火) 9:01配信
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後出しジャンケンとしての「速やかなウイルス減少」
 さて、ゾフルーザに期待を寄せる言説のうちで、なぜか判で押したように繰り返し強調されたのが、「ウイルス量が早く減る」という点だ。まさに製造販売元のサイトに「1回経口投与で速やかなウイルス減少」というキャッチコピーが載っている。

 これを見た人の多くは「早く治りそうだ」と思うだろうし、実際の効果はタミフルと同じだと知っている人でさえ、「他人にうつす期間が短くなる」と解釈したようだ。

 このキャッチコピーは、ゾフルーザとタミフルを比較した臨床試験で、ゾフルーザを飲んだ翌日・翌々日に検出されたウイルス量が、タミフルを飲んだ人よりも少なかったという結果に基づいている。

 しかし、そもそもこの試験はウイルス量を見るための試験ではない。

 なんとなく試験をやり、判定は結果が出てから場当たり的にするのでは、判定する人の予断によって結果がゆがめられてしまう。だから試験結果を判定する基準は試験を始める前に決めておく。これをプライマリ・エンドポイントと言う。

 ゾフルーザの試験のプライマリ・エンドポイントは「症状が軽くなるまでの時間」と決められていた。ほかに37項目の参考値(セカンダリ・エンドポイント)のひとつとしてウイルス量も見ることになっていた。そして、症状が軽くなるまでの時間はゾフルーザで53.5時間、タミフルで53.8時間であり、統計的に差があるとは言えなかった(なおこの試験では、解熱薬のアセトアミノフェンで症状緩和するまでの時間は試されていない。試せば間違いなくアセトアミノフェンが勝つと思うが)。

 この試験の結果を要約するなら、「タミフルと同程度の時間で症状緩和」となるはずだ。しかし、例のキャッチコピーは、主要な結果には触れないで、枝葉のほうだけを強調している。37項目も参考値を設定したのだからどれかひとつくらい有望そうな結果が出ても不思議はないのだが、果たせるかな、いい結果が出たところだけをアピールしているわけだ。後出しジャンケンだ。

後出しジャンケンは悪なのか

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 ゾフルーザの宣伝文句は、都合のいいところだけを強調して、肝心なことを伝えていない。 しかし、常識的に言って、広告とはそういうものだ。だから読者がもし販売や営業に関わっている人なら、「それくらい当たり前ではないか」と思ったかもしれない。

 しかし、「たくさん測って、いいものだけ報告する」というやりかたが統計学にとって問題となるのは、偶然の差を誤って効果と見てしまう可能性を大きくするからだ。

 サイコロを3回振って3回とも6が出る確率は非常に低い。しかし、3回のセットを1000回繰り返せば、1回くらい「6の3連続」が出る確率はかなり高くなる。その1回だけを報告して、残りの999回は隠しておけば、「偶然としてはまれなので原因がありそうだ」という理屈に持っていける。

 つまり、後出しジャンケンを野放しにしておくと、ぜんぜん効かない薬であっても、何らかの望ましい変化を起こしたという広告が「エビデンスに基づいて」可能になってしまう。

 この問題は統計学では多重比較の問題として古くから知られ、技術的な対応もさまざまに考案され、規制当局が体系化する試みもある。しかし、後出しジャンケンの問題として抽象度を上げてとらえると、しだいに技術的には抑えきれない局面が見えてくる。

さくらんぼを摘んだオプジーボ

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 データの後出しジャンケンは、ひとつの研究の内部だけでなく、複数の研究のうちうまくいった研究だけを宣伝するというやりかたでも可能だ。これはチェリー・ピッキング(さくらんぼ摘み)とも呼ばれる。

 ノーベル賞で話題になった、オプジーボ®(一般名ニボルマブ)という薬を例に取ってみよう。

 オプジーボはさまざまながんの治療に使われ、以前の薬にはない作用を持つということで注目された。2019年にも、オプジーボとヤーボイ®(一般名イピリムマブ)を組み合わせて進行非小細胞肺癌を治療するという試験の結果が、『New England Journal of Medicine』(以下『NEJM』)という、世界で一番権威のある臨床医学誌に載った(ヤーボイとは何か、非小細胞肺癌とは何かが気になるかもしれないが、以下を読むためには「薬である」「病気である」とさえわかっていれば十分だ)。

 効果は上々だったようだ。ところが、同じ試験の結果が、1年あまり前の同じ『NEJM』に載っている。2018年の報告よりも長期の結果を改めて報告したということになっているが、当然ながら、大局は変わっていない(まれな副作用が新たに出てこなかったという意味ではよかった)。

 2回も論文にするくらいだからよほど重要な試験だったのだろうか。

 臨床試験はあらかじめデータベースに登録し、その概要を公開することになっている。オプジーボとヤーボイの試験もClinicalTrials.gov というデータベースに登録されている。このデータベースで、「niviolumab(ニボルマブ)」「ipilimumab(イピリムマブ)」「NSCLC(非小細胞肺癌)」をキーワードに検索すると、49件の試験がヒットした(執筆時点)。

 いくつか拾い出してみよう。

 ・ニボルマブかイピリムマブのどちらかを、クリゾチニブかエルロチニブのどちらかと併用する試験 
・ニボルマブとイピリムマブの2剤併用を、ニボルマブ・カルボプラチン・ペメトレキセド3剤併用と比較する試験 
・新薬候補INCAGN01949とともにニボルマブまたはイピリムマブまたはその両方を使う試験 

 このとおり、少しずつ条件を変えた試験が無数にある。ではこの無数の試験からは無数の論文が書かれているだろうか。試験の登録番号を論文データベースで検索してみたところ、上の3件のうち、最初のひとつだけが1件ヒットした。対して、『NEJM』に載った試験の登録番号は5件ヒットした。

 ニボルマブの試験は、いい結果を出したものばかり盛んに論文にされ、多くの人の目に入るようにされているが、その陰には黙殺された無数の試験がある。

臨床試験の「論文」?

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 補足しておこう。ごく素朴な意味において、薬の臨床試験の結果を「論文」にすることに学術的意義はほとんどない。

 第一に、すべての臨床試験はデータベースに登録することになっていて、データベースの中に結果も登録できる。実際にはデータベースの中で結果を見られた記憶がないのだが、これは試験をした人がちゃんと情報公開していないだけだ。

 一元化されたデータベースに重要な試験のほとんどが登録されていて、決まったフォーマットで結果も参照し比較できるなら、データを使いたい多くの臨床医や研究者にとって便利だろうし、後出しジャンケンも簡単に見抜けるはずだ。

 実際は「論文」にしてもらえた少数の試験結果を見るのにも、形式が統一されていないのでいちいち文章を読んで知りたい数字を探さないといけない。重要な項目が登録されているのに「論文」には載っていないこともある。紛らわしい表現が使われることも間々ある。 この面では臨床試験の「論文」は結果をわかりづらくする方向にしか働いていない。

 第二に、薬の承認の可否や効能・効果の変更を左右する試験の結果は、添付文書という薬の説明書に載ることになっている。日本で言うとインタビューフォームとか審査報告書というさらに詳しい資料もある。

 実際の添付文書、インタビューフォーム、審査報告書を読んでみれば、どこにも論文として出されていない「社内資料」がたくさん参照されている。これは論文をいくら読んでも「なぜこの薬がこのような使いかたで効くと言えるのか」はわからないということだ。

 当然ながら、論文になった試験であっても、重要なら添付文書に載る。

 この種の「論文」は添付文書より先に出ることもあるが、添付文書のほうが規制当局による厳しいチェックを受けているし、添付文書がない時期、つまり薬が承認されていない時期に情報だけがあっても、薬は使えない。

 もちろん添付文書にも弱点はある。特に厳格な臨床試験がいまほど重視されていなかった時代の添付文書は頼りない。しかし大局として、日々新たに登場し、華々しい統計とともに紹介される新薬をよく知るには、論文より添付文書を読むほうがはるかに早くて情報量もある。

 第三に、「論文」にする狙いが不明だ。重要な試験を選び出すとか、データベースの形式ではわからない新しい観点を提供するといったことなら、それは上で批判してきた後出しジャンケンそのものだ。

 重要な試験結果が報告されたことを広く伝える役割は、論文ではなく、ニュースにある。医学誌ではなく医師向け情報サイトでやれば十分だ(『JAMA』のように医学誌にニュースコーナーがあってもいい)。

 試験の主な結果がすでに周知されていることを前提に、あくまで仮説生成のために登録外の解析をやるというなら、わからないことはない。だが現実には登録どおりにプライマリ・アウトカムを報告した「論文」が続々と『NEJM』にも載っている。

 ・未治療の急性骨髄性白血病に対するアザシチジンとベネトクラクスの試験の「論文」(データベースに登録されている)
・新型コロナウイルスに曝露されたあとでヒドロキシクロロキンを飲むことでCOVID-19の発症を予防できるかの試験の「論文」(データベースに登録されている)
・ニルセビマブでRSウイルス感染症を予防できるかの試験の「論文」(データベースに登録されている)

 もちろん、データベースにも問題がないわけではない。たとえば、論文よりもはるかに多くの試験が登録されるために、ひとつひとつが査読されていないという点は弱みになりうる。しかし査読にも抜け道などいくらでもあることは、ゾフルーザの論文が示しているとおりだ。

 現実には臨床試験の「論文」はおおむね広告としてしか機能していない。データベースで淡々と報告すればいいものに、専門誌の権威を飾り付けているだけだ。

出版バイアスの問題
 実際に無数に行われている臨床試験のうち、論文として医学誌に載るものは一握りでしかない。中でも『NEJM』のようなトップ人気の医学誌に載るものはさらに絞られる。ここで、いい結果が出た試験のほうが論文になりやすく、人気の医学誌にも載りやすいことが古くから指摘され、出版バイアスと呼ばれている。

 出版バイアスは難しい問題だ。論文になっていない、試験登録データベースにも載っていない結果は存在するかどうかもわからないので、出版バイアスがあるかどうかを厳密に検証することが原理的に難しい。

 だから「非小細胞肺癌をオプジーボとヤーボイで治療する」と考えたとき、『NEJM』に載った試験の条件からほんの少し違う条件でも効くと言えるのか、それとも条件が違うと効かないのか、判断しようがない。「この場合には効かなかった」というデータがあれば、「効いた」というデータと同じくらいの価値があるはずなのだが、「効かなかった」のほうはどこかに埋もれてしまう。

 臨床医学で言うチェリー・ピッキングとは、論文の著者が自説に都合のいい文献ばかり引用することを指す。出版バイアスとはつまり、個々の著者ではなく、研究者の社会全体が共同で行うチェリー・ピッキングだ。

 出版バイアスに対抗するために試験登録のしくみができたし、次に説明するように、「出ているデータは全部まとめる」という方法が発達した。これもいまでは攻略されてしまったのだが、重要なアイディアではあるので、次回の記事の最初で簡単に説明することにしよう。(つづく)

大脇 幸志郎(医師)


「生きてればなんとかなる」『半沢』最終回の台詞に反響続々

2020年09月29日 10時43分47秒 | 社会・文化・政治・経済

9/28(月) 17:51配信

女性自身

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9月27日、ついに最終回を迎えた『半沢直樹』(TBS系)。7月の放送開始時から放送時には毎回Twitterのトレンド世界1位を記録するなど、驚異的な反響を記録し続けた本作。

【写真】今年6月、誕生日会を終えHIROと見つめ合う上戸彩

前話ラストでラスボスである箕部幹事長(柄本明)に「1000倍返し」を宣告した半沢直樹(堺雅人)。中野渡頭取(北大路欣也)や大和田常務(香川照之)らの協力を得て、箕部の不正を暴くことに成功し、1000倍返しを達成した。最終回の平均視聴率も32.7%(ビデオリサーチ調べ)と、新シリーズの最高記録に。まさに大団円のまま幕を閉じた。

そんななか、最終回の“ある台詞”に反響が集まっている。

物語中盤で、打つ手をなくし、会社から“島流し”を予告され追い詰められた半沢。自宅で妻の花(上戸彩)に「出向どころではすまないかもしれない」と詫びると、花は「いっそのことやめちゃえば?」と優しくフォローする。そして、「直樹は今まで十分すぎるくらい頑張った」と認めたうえで、涙を浮かべながらこう語りかけた。

「直樹、今までよく頑張ってね。ありがとう。お疲れ様。ていう気持ちでいればとりあえず少しは気が楽になるでしょ。仕事なんかなくなったって生きてればなんとかなる。生きていれば、なんとかね」

SNSではこの花の台詞に背中を押される人々が続々。

《半沢直樹見てるんだけど、 上戸彩さん演じる奥さんの言葉、本当に胸にしみるなぁ……》
《ほんとにその通りだよ、生きてればなんとかなるよ》

なかには、同日に逝去が報じられた竹内結子さん(享年40)と重ねる人も多かったようだ。

《花ちゃんの“生きてればなんとかなる“って言葉、今日竹内結子さんの自殺の件のあってぐっと心に刺さった》
《こんなときだから、生きてればなんとかなるって言葉が心に刺さるね》
《生きてればなんとかなる…今日は特に響く言葉だよな》

■「日本いのちの電話」
ナビダイヤル:0570-783-556(午前10時~午後10時)
フリーダイヤル:0120-783-556(毎日・午後4時~午後9時/毎月10日・午前8時~翌日午前8時)

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「半沢直樹」“倍返しの戦略”最終話32・7%、令和のドラマで断トツ!堺雅人「本当に感謝」

2020年09月29日 10時40分08秒 | 社会・文化・政治・経済

9/29(火) 5:30配信

スポニチアネックス

半沢直樹役を務めた堺雅人。最終回は高視聴率をマークした

 27日に放送された堺雅人(46)主演のTBSドラマ「半沢直樹」の最終回(第10話)が、平均世帯視聴率32・7%を記録した(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。第1話から22%以上をキープし、最終回で初の30%超え。NHK、民放を通じてドラマの視聴率が30%を超えたのは、13年に放送された前作の最終回(42・2%)以来で令和では初。新型コロナウイルスの影響で放送が危ぶまれたこともある中、見事な“倍返し”を果たした。

【写真】「感謝の1000倍返し」ポーズを決める堺雅人と香川照之(インスタから)

 7年前の前作と同様に最終回で最高数字を叩き出した。32・7%は令和のドラマでは断トツ(2位も同作の第8話25・6%)だ。

 全10話の平均も24・7%。TBSの連ドラが全話で20%を超えたのも、07年の「華麗なる一族」以来13年ぶり。昨今「連ドラは10%を超えれば成功」といわれる中で圧倒的な結果を残した。同局によると、3300万人が視聴したことになる。

 堺は本紙に「ドラマに携わったスタッフ一同、出演者の皆さまのおかげで、コロナ禍の大変な中で最後まで演じきることができました。そして、多くの方に見ていただいたことに本当に感謝しています」とコメントした。

 話題となったのが「顔芸」「歌舞伎芸」と呼ばれたオーバーアクションの演出。「やりすぎ」との批判も起きかねない演技は制作陣の大きな賭けでもあった。そこにはコロナ禍で、ほかのドラマでは見られない2つの“密な戦略”があった。

 一つは「物理的な密」だ。劇中で繰り広げられたのは、出演者同士が顔と顔を突き合わせた激しいバトル。撮影現場では万全な感染対策をしつつ、互いの唾が飛び交う距離で演技合戦が繰り広げられた。人間味あふれる激しいやりとりが視聴者の心を熱くさせた。

 もう一つは「精神的な密」。放送のたびに演技に対する視聴者のツッコミでSNSが盛り上がった。その反響にまるで生ライブのように出演者が“コール&レスポンス”で応え、演技がより大きくなっていった。SNSで拡散された「顔芸」「後ずさり土下座」「歌舞伎芸」などのワードは、独自の半沢ワールドとして国内だけでなく中国など海外でも受け入れられ、ドラマ自体がSNSとともに成長。視聴率を押し上げていった。

 同志社女子大学学芸学部メディア創造学科の影山貴彦教授も「前作は社会人が抱えるフラストレーションを代弁してヒットした」と前置きした上で「今回はそこにコロナ禍が加わり、それが最後の1000倍返しにつながった。“しんどいけれど頑張ろう”という半沢のメッセージは、我々が前を向こうとする思いと重なった」と分析した。

 制作側も何度も壁にぶつかった。当初は4月期の放送予定だったが、コロナ禍の影響で収録が2カ月中断。撮影再開後もロケ場所を借りられない事態が相次ぎ、スタッフの感染で撮影休止も余儀なくされた。前代未聞の生放送でしのいだ回もあり、撮了は最終回の3日前だった。

 さまざまな困難を打ち破っての記録的視聴率。まさに視聴者もスカッとするコロナ禍への倍返しとなった。

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菅氏がやり続けた東京新聞・望月衣塑子記者への露骨な嫌がらせは総理会見でも続くのか?〈dot.〉

2020年09月29日 10時30分24秒 | 事件・事故

9/29(火) 8:00配信

AERA dot.

約8年続いた安倍政権で進んだと言われるのが、メディアへの圧力だ。「あなたに答える必要はありません」――。新首相の菅義偉氏は官房長官時代、政府の疑惑を追及する東京新聞・望月衣塑子記者の質問を露骨に制限。

【写真】東京新聞の望月衣塑子記者

 新首相となった菅氏の今後の会見での対応が注目されるなか、当時の官房長官会見で何が起きていたのか。朝日新聞政治部記者で、菅氏の官房長官会見にも参加していた南彰氏の著書『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)から、一部を抜粋・改編してお届けする。

*  *  *
「あなたに答える必要はありません」――。政府にとって都合の悪い記者からの質問には、こう一刀両断し、封じ続けてきた菅義偉官房長官(当時)。安倍官邸への政治権力の集中によって、政治とメディアの関係も変質した。

 2020年4月9日、コロナ禍を理由に官房長官会見は「1社1人」の人数制限がかけられ、未だに解消されていない。その結果、菅官房長官の答弁の矛盾を厳しく追及してきた東京新聞社会部の望月衣塑子記者は、会見に出席できない状態が続いている。

 私が東京政治部に配属されたのは今から12年前の2008年。自民党の福田康夫政権の時だ。フリーランスへのオープン化の前だったが、官房長官記者会見は、官房長官番に限らず、「誰が聞いてもいい」という比較的自由な雰囲気があった。民主党の野田佳彦政権だった11年9月から1年4カ月間、官房長官番を務めた時も、自由な質疑の雰囲気は続いていた。

 ところが、私が2年半の大阪勤務を終えて、15年9月に再び東京政治部に戻ってくると、官房長官会見の質疑がほぼ番記者に限定されるようになっていた。内閣改造を経ても続投を重ねる菅官房長官のもとで新たな秩序が作られていき、不都合な質問には「ご指摘は全く当たりません」と一方的に切り捨てて、「菅はどうせ答えない」という諦めの相場観が広がっていった。

 そうした官房長官と番記者の間で作られた秩序の矛盾が明るみになったきっかけが、17年5月17日の記者会見だ。安倍首相の友人が理事長を務める加計学園の獣医学部新設をめぐり、「総理のご意向」などと書かれた文部科学省の文書を朝日新聞が報じた際に、「怪文書のようなものだ」と菅官房長官が切り捨て、「確認できない」という政府の答弁が1カ月近く続いた。

そのやりとりに国民のフラストレーションがたまるなか、官房長官の記者会見に乗り込んでいったのが、東京新聞社会部の望月衣塑子記者だった。

 同年6月8日、「総理のご意向」などと書かれた文書の再調査を要求。司会の官邸報道室長から「繰り返しの質問はお控えください」と言われても、「きちんとしたお答えを頂いていないから聞いているんです」と官邸記者クラブを覆う空気を打ち破り、計23問の質問を浴びせた。その様子は夜のテレビニュースでも放映され、耐えかねた政権は文書の存在を認める再調査実施に追い込まれた。国民・市民の期待に応える質疑を行うには、メディア側の多様性や型にはまらない姿勢が必要であることを強く印象づける事件になった。

 しかし、官邸はその後、望月記者に対し、(1)質問の順番を後回しにする(2)「公務がある」といって質問数を制限(3)質問中にもかかわらず7~8秒おきに「簡潔に」と妨害(4)質問内容に「事実誤認」のレッテルを貼る――といった嫌がらせを繰り返し、意に沿わない記者を排除しようとした。

 その象徴が、18年12月26日の記者会見をめぐる対応だ。

 沖縄県名護市辺野古で進む米軍新基地建設をめぐり、望月記者が「埋め立て現場ではいま、赤土が広がっております」と質問したことについて、菅官房長官は「法的に基づいて、しっかり行っています」「そんなことありません」とまともに答えなかったあげく、官邸報道室が「表現は適切ではない」「事実に反する」と主張する文書を官邸記者クラブの掲示板に貼り出した。

「東京新聞の当該記者による度重なる問題行為については、総理大臣官邸・内閣広報室(ママ)として深刻なものと捉えており、貴記者会に対して、このような問題意識の共有をお願い申し上げるとともに、問題提起させていただく」と書かれていた。「本件申し入れは、記者の質問の権利に何らかの条件や制限を設けること等を意図したものではありません」という言い訳が添えられていたが、記者の排除や質問封じを狙った申し入れだった。

この申し入れが悪質なのは、記者の質問内容にまで政府見解をあてはめて、排除しようとする検閲に近い行為だったからだ。

 赤土が広がっていることは現場の状況を見れば明白で、記者が記者会見で質問することは自然な行為であった。埋め立て工事に使用する土砂に、当初の仕様書の4倍以上の赤土などが含まれていた疑惑を問いただそうとした望月記者に対して、一方的に「事実誤認」や「問題行為」のレッテルを貼ったが、結局、望月記者の指摘の方が正しいことがわかった。

 望月記者の集計によると、20年1月7日から4月3日まで計58回の官房長官会見に参加したが、質問ができたのは21回・32問だけ。多くの記者会見で、望月記者の質問が始まる前に、官邸報道室長が「この後公務があるので、あと1問で」などと言って、記者会見を打ち切っていった。官邸記者クラブが主催する官房長官の記者会見は、かつては記者の質問が尽きるまで行われてきた。

「公務があるのであと1問」という事実上の時間制限も、17年夏に望月記者の追及に困った官邸側が求めた、いわば「望月封じ」のルールだった。

 20年9月2日。安倍政権継承を掲げる菅氏が国会内で記者会見を開き、自民党総裁選への立候補を表明した。この日は入場制限がなかったため、16人目の質問者で望月記者が指名された。

「私自身が3年間、長官を見続けている中で非常にやはり心残りなのが、やはり都合の悪い不都合な真実に関しての追及が続くと、その記者に対する質問妨害や制限というのが長期間にわたって続きました。これから総裁になったとき、きちんと記者の厳しい追及も含めてそれに応じるつもりはあるのか、また首相会見、安倍さんの会見ですね、『台本通りではないか』『劇団みたいなお芝居じゃないか』という批判もたくさん出ておりました。今後首相会見でもですね、単に官僚が作ったかもしれないような答弁書を読み上げるだけでなく、自身の言葉で事前の質問取りをないものも含めて、しっかりと会見時間をとって答えていただけるのか。その点をお願いいたします」

 3年間の実感がこもったまっとうな問いだったが、菅氏は首相就任後の方針を示すように、こう切り捨てた。

「限られた時間の中でルールに基づいて記者会見というのは行っております。ですから早く結論を質問していればそれだけ時間が浮くわけであります」

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「聞く耳持たずで有言不実」海外メディアが報じた菅新政権への厳しすぎる評価

2020年09月29日 10時27分40秒 | 社会・文化・政治・経済

9/23(水) 15:33配信

HARBOR BUSINESS Online

(Photo by Carl Court / Pool/Anadolu Agency via Getty Images)

 歴代最長となった安倍政権を引き継いだ菅義偉総理大臣。日本国内では「苦労人」か、はたまた「金持ちの道楽息子」かと議論がなされているが、海外ではどのように報じられているのだろう?

報道規制を進めた張本人
 まず注目したいのは、安倍政権の「レガシー」を継ぐ首相として、さっそく「国境なき記者団」(RSF)から釘を刺されている点だ。(参照:RSF)

 RSFは「先日指名された菅義偉首相に対し、2012年には22位でありながら、現在は『報道の自由度ランキング』で180か国中66位の位置にいる日本が、再び報道の自由の模範になるよう要請」している。

 この発表は予想どおりというか、これまで幾度となく記者会見で記者の質問に答えない、質問を制限していることからも、容易に想像できる反応だ。

「しばしば安倍の右腕と称される菅は、ジャーナリストに対する憎悪やメディアへ介入しようとする環境が生まれたことに対して責任を負っている。

 2019年の記者会見の際、菅は『あなたに答える必要はありません』と、繰り返し『東京新聞』の記者の質問に答えることを拒否し、ジャーナリストたちの抗議を巻き起こした。また、菅はコロナウイルスによるパンデミック下での政府の記者会見の制限にも関わっている」

 歴代最長政権下では、「教育への公的支出」は38か国中37位、「相対的貧困率」はG7で2番目などなど、さまざまな記録が打ち立てられてきたが、これらは「前政権が残した負の遺産」ではなく、菅首相が積極的に後押ししてきたものとして見られている。

「日本は基本的に報道の自由やメディアの多元主義が尊重されているが、しばしば伝統や経済的影響が、ジャーナリストたちが民主主義の番犬として完璧に機能することを阻んでいる。ソーシャルメディアでは、極端な国家主義者たちが福島の原子力災害や沖縄の在日米軍基地など国にとって“恥ずかしい”とみなされる内容を追うジャーナリストたちに嫌がらせをしている」

 こういった状況を生み出した張本人と目される菅新首相は、はたして汚名返上できるのだろうか。

さっそく指摘されたチグハグさ
 続いては「AP通信」。菅首相が外交や経済政策などを安倍政権から引き継ぎ、デジタル化を推し進めることを紹介したうえで、次のように報じている。(参照:AP通信)

「彼(菅首相)は規則改革を徹底し、既得権益を打ち倒すと述べた。しかし、新たな党内人事では、主要なポストに各派閥から均等に人員を配置しており、これは総裁選での助力に報いる動きであると見られている」

 日本国内では実際に「やったこと」よりも、「言ったこと」ばかりが右から左に報道されがちだが、海外メディアからは就任したそばから、そのチグハグさが指摘されている。

 また、日本でも注目されている外交についても、懐疑的なトーンがにじみ出ている。

「国内での政治手腕と比べ、菅はほとんど外遊をしておらず、その外交力は未知数だが、概ね安倍政権の優先事項を踏襲するのではないかと考えられている」

お先真っ暗な「女性躍進」
 菅新政権を5つのポイントにまとめて報じたのは「ブルームバーグ」だ。各ポイントは次のとおり。(参照:Bloomberg)

 1・「アベノミクス」は続く
 2・「ウーマノミクス」は失速
 3・官僚よ用心しろ
 4・外交はお預け
 5・台湾コネクション

 「アベノミクス」の継承と外交手腕については説明するまでもないだろう。

 「ウーマノミクス」については、安倍政権が掲げた女性を主要ポストの30%に就ける、「SHINE」させるという謳い文句とは裏腹に、その数値が10%にまで低下したことが報じられている。さらに閣僚の平均年齢が約61歳で、うち3人は70代。その一人が菅首相自身であることも指摘されている。

 官僚との関係については、菅首相がたびたび官僚主義を打破すると発言してきたことと併せ、河野太郎氏が行政改革・規制改革担当相、平井卓也氏がデジタル改革担当相に就任したことが取り上げられている。

 そして、台湾コネクションについては、菅首相が安倍前首相の弟、岸信夫氏を防衛大臣に就けたことが紹介されている。岸氏が台湾と密接な関係にあり、これが中国への牽制であるとの見方だ。

ミスを待ち構える若手議員たち
 最後はアメリカ「CNN」とイギリス「BBC」の英米2大メディア。CNNは菅首相が「前日本首脳の右腕」であるため、総理大臣就任は驚くべきことではないとしている。(参照:CNN、BBC)

「8月、日本は世界的パンデミックの影響で記録的なGDPの下降が報じられ、2020年4~6月期、経済は7.8%縮小した。東京ではいまだに延期された2020年夏季五輪を2021年に開催する予定だが、そのころまでに世界的なパンデミックが収まっているかには疑問がつきまとう。

 また、日本は巨額の公債や高齢化といった長期的な経済、社会的問題に直面している。安倍が社会に呼びかけた職場での男女平等とは反対に、評論家は彼の政権時に十分な進捗はなかったと語る」

 一方、BBCは「菅義偉:予想外の日本国新首相の台頭」という見出しで、上智大学の中野晃一教授のコメントを引用しつつ、次のように報じている。

「『彼はどの派閥にも属していません。彼が権力に登りつめたのは安倍氏のお気に入りだったからです。緊急時には彼の背後にいる党の重鎮たちが奔走するでしょう。しかし、ひとたび危機が去り、重鎮たちが求めているものが手に入らないとわかれば、間違いなく権力争いが起きるはずです』(中略)

 多くの“王位を狙う若き者たち”は菅氏がミスを犯すのを待っている。そして、多くの問題が悪しき方向に向かいかねない。安倍首相が辞任を発表する前、主にコロナ対策への不満から支持率は30%まで落ち込んだ」

 就任してからまだ何も行なっていないにも関わらず、高い支持率を集めている菅新政権だが、相変わらずコロナウイルスは猛威を振るい続け、経済は低調なままだ。

 たいした要因もないまま上下高を繰り返す支持率については、おそらく本人もそれほど気にしていないだろうが、記事中でも紹介した数値(もしかしたら国内では破棄・改ざんすればすむのかもしれないが)、そして国民が肌で感じる生活苦は誤魔化しの効かないものだ。

 唯一変えられるとすれば、それは菅首相の「行動」にかかっている。海外メディアに指摘されるような「聞く耳持たず」な姿勢ではなく、総理大臣の職に恥じないような活躍を期待したい。

<取材・文・訳/林 泰人>

【林泰人】
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

ハーバー・ビジネス・オンライン

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中国から「謎の指輪」届く 岡山の民家、送り付け商法か

2020年09月29日 07時14分40秒 | 事件・事故

2020/8/21 08:00 (JST)
山陽新聞社

男性方に送り付けられた指輪と請求書(画像の一部を加工しています)
 「注文した覚えのない種子が中国から届いた」というトラブルが全国で相次ぐ中、今度は「謎の指輪」が岡山市内の民家に送り付けられていたことが20日、分かった。約20万円の請求書も同封され、相談を受けた県消費生活センターは一方的に商品を送って代金を支払わせる「送り付け商法」の可能性があるとして、注意を呼び掛けている。

 指輪が送り付けられたのは岡山市東区、自営業の男性(61)方。男性によると、11日午後、送付元が中国・山西省と記された封筒が届き、中に有名ブランドのものらしき指輪1個が入っていた。1万5200香港ドル(約20万7千円)の請求書も同封されていたが、振込先などの記載はなく、今のところ金銭的な被害はない。

 男性は仕事上、日常的にインターネットで中国企業から商品を仕入れ、クレジットカードで決済しているためカード情報の流出が心配といい、「高額請求に血の気が引いた。『謎の種子』の件は知っていたが、まさか自分に指輪が届くとは…」と困惑している。

 特定商取引法は、注文していない商品が届いた場合、代金を支払う必要がなく、14日間経過すれば処分できると規定。「注文していない」などと送付元へ連絡すれば、個人情報の流出や高額請求といったトラブルも懸念され、同センターは「自分一人で解決しようとせず、まずは相談してほしい」としている。

 


実在しない国番号から着信 詐欺目的、4百万円被害も

2020年09月29日 07時03分49秒 | 事件・事故

9/29(火) 5:45配信

共同通信

実在しない国番号「+83」「+422」からの着信履歴(画像の一部を加工しています)

 実在しない国際電話番号から国内携帯電話への着信が、今月に入り急増したことが29日分かった。通話に中国語が使われ、在日中国人を狙った「振り込め詐欺」とみられるが、日本人への着信も多い。約400万円の被害も出ており、専門家は不審な電話に応対しないよう呼び掛けている。

 全国の警察などから迷惑電話番号の提供を受けて対策を取る「トビラシステムズ」によると、8月ごろから存在しない国番号「+83」や「+422」から始まる不審な番号からの着信が確認されるようになり、9月には5千回以上来た日もあった。

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映画 博士と狂人

2020年09月29日 06時54分00秒 | 社会・文化・政治・経済

画像1

“孤高の学者”メル・ギブソンד殺人犯”ショーン・ペンが辞典づくりの夢を追う!「博士と狂人」予告編入手

2020年8月12日 13:00

世界最大の辞典「オックスフォード英語大辞典」の礎を築いたのは、孤高の学者と殺人犯だった…
世界最大の辞典「オックスフォード英語大辞典」の礎を築いたのは、孤高の学者と殺人犯だった…

[映画.com ニュース]メル・ギブソンショーン・ペンが初共演を果たした「博士と狂人」の予告編を、映画.comが先行入手した。原作は、世界最大の辞典「オックスフォード英語大辞典」誕生にまつわる、孤高の学者と殺人犯をめぐる実話をベースにしたベストセラーノンフィクション。映像には、出会うはずのなかったふたりが、辞典づくりという壮大なロマンによって固い絆で結ばれていくさまが映し出されている。

初版発行まで70年以上の歳月を費やした、世界最高峰と称される「オックスフォード英語大辞典」(通称OED)。辞典の礎を築いたのは、学者と殺人犯だった――。

この驚くべき事実をドラマティックに描いたノンフィクション本「博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話」(サイモン・ウィンチェスター著)の映画化に真っ先に名乗りをあげたのは、「ブレイブハート」「ハクソー・リッジ」など監督としても高い評価を得るギブソン。「ミスティック・リバー」「ミルク」で、2度のアカデミー賞主演男優賞に輝いたペンと初タッグを組んだ。

予告編では、貧しい家に生まれ学士号を持たない、叩き上げの学者マレー(ギブソン)が、辞書編集の国家プロジェクトに情熱を燃やす姿を活写。そんなマレーに協力したのは、エリートでありながら精神を病み殺人を犯し、精神病院に監禁されているマイナー(ペン)だった。

映像では、「奴らが殺しに来る」と叫ぶマイナーが抱える、恐ろしい過去の記憶が呼び起こされていく。やがて、大英帝国の威信をかけた一大事業に犯罪者であるマイナーが協力していることが露見し、プロジェクトは暗礁に乗り上げてしまう――。辞典づくりを通して心を通わせていく異端の天才ふたりの歴史も動かす“結末”に、期待が高まる映像に仕上がった。

博士と狂人」は、10月16日からヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開。なお、8月7日からは特典(オリジナル付箋Dictionary、数量限定)つきのムビチケカード(税込1500円)が発売となる。

(映画.com速報)


解説
初版の発行まで70年を費やし、世界最高峰と称される「オックスフォード英語大辞典」の誕生秘話を、メル・ギブソンとショーン・ペンの初共演で映画化。
原作は、全米でベストセラーとなったノンフィクション「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」。貧しい家庭に生まれ、学士号を持たない異端の学者マレー。エリートでありながら、精神を病んだアメリカ人の元軍医で殺人犯のマイナー。
2人の天才は、辞典作りという壮大なロマンを共有し、固い絆で結ばれていく。しかし、犯罪者が大英帝国の威信をかけた辞典作りに協力していることが明るみとなり、時の内務大臣ウィンストン・チャーチルや王室をも巻き込んだ事態へと発展してしまう。
マレー博士役をギブソン、マイナー役をペンがそれぞれ演じるほか、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のナタリー・ドーマー、「おみおくりの作法」のエディ・マーサンらが脇を固める。

2019年製作/124分/G/イギリス・アイルランド・フランス・アイスランド合作
原題:The Professor and the Madman
配給:ポニーキャニオン

 

先人たちの底力 知恵泉「新しい女の生き方 昭和編 長谷川町子」

2020年09月29日 06時45分32秒 | 社会・文化・政治・経済

 NHK Eテレ・東京 9月29日(火) 22:00〜22:45
公式サイト
 オンエア情報

明治から昭和の日本で、先駆的な活躍をした女性を2週に渡って紹介。今回は漫画『サザエさん』の作者・長谷川町子。女性漫画家の草分けとして昭和を生き抜いた知恵を探る。
番組内容

戦後日本の新しい女性と家族を生き生きと描いた国民的漫画『サザエさん』。作者の長谷川町子は、プロの女性漫画家の第1号ともいわれ、今年が生誕百周年。

漫画家で唯一、国民栄誉賞を受賞しながら、その姿はベールに包まれている。外部との交流がほとんどなかったからだ。町子が15歳で漫画家デビューしたのは昭和10年。女性の社会進出はまだ限定的で、女流漫画家など想像もできない時代、自立した女性として生きた知恵を探る。
出演者

【出演】西原理恵子,熊谷真実,中央大学教授…山田昌弘,【司会】新井秀和


竹内結子さん早すぎる死 臨床心理士が不安視するコロナ禍の“雑談不足”つらい気持ちを察するために「15秒の気配りと3分の雑談を」

2020年09月29日 00時29分46秒 | 事件・事故

9/28(月) 19:51配信

ABEMA TIMES

竹内結子さん

 女優の竹内結子さんが自宅で意識不明の状態で見つかり、その後、死亡が確認された。数多くのドラマや映画に出演していた竹内さんの、40歳という早すぎる死に日本中に驚きと悲しみが広がった。

相次ぐ自殺に臨床心理士「コロナ禍は外して語れない」

 9月27日の午前2時前、東京・渋谷区のマンションで夫の俳優・中林大樹(35)から119番通報があった。竹内さんは自宅の寝室で心肺停止の状態で発見され、搬送先の病院で死亡が確認された。遺書などは見つかっていないが、警視庁は周辺の状況から自殺したとみて調べている。

 竹内さんは2005年6月に歌舞伎俳優の中村獅童と結婚、11月に長男を出産したが、3年後の2008年2月に離婚した。去年2月に中林と再婚すると、今年1月には第2子となる男児を出産していた。

 ここ最近、芸能界で自ら命を絶つ人が相次いでいることに、臨床心理士の明星大学・藤井靖准教授は「本当に衝撃でした。またこういうことが起こってしまったという、ショックな気持ちが大きい」と率直な感想を述べると、続けて「今年はコロナ禍というのは、外して語れないと思う。俳優、女優の方がなくなるということが相次いでいるが、一人の労働者として見た場合、仕事があったりなかったりという時期を繰り返していく方も多い。中にはコロナで仕事がなくなって、本当にまた仕事が始められるんだろうかという不安や、自信をなくした方もいると思う」と、労働時間やリズムが不安定な職種であることもストレスがかかりやすいのではと指摘した。

 また、自身が出演した作品の評価が、自分の存在価値にも直結しやすいのが俳優業の特異性だとして「例えば会社員のように、同僚や先輩・後輩がいて、手伝ってもらったり代わってもらえるという環境でもないため、孤独な真剣勝負を続けていかなければならない。普段からプレッシャー、ストレスがかかる上に、コロナ禍でイレギュラーな日常を誰しもが強いられている。亡くなるということは複合要因で、一つに絞ることは難しいが、自分と向き合う時間が増えたことでアイデンティティや自分の今後について考えざるを得ない状況も相まって心理的な負担がかかり、精神的な孤独に至っていた可能性は推測される」と、様々な不安の積み重ねが要因だったのではと語った。

 今年1月に出産していた竹内さんだが、一般論として出産をした女性の心、体がアンバランスになることは珍しくない。「マタニティブルーズといって、2週間以内の短期的な精神や身体の不調は30%ぐらいの人に起こると言われている。それが長く続くと産後うつと呼ばれ、出産して3カ月以内に発症することが多い。その後、カウンセリングや治療など何も対策をしなかった場合、さらに3カ月程度でより状態が悪化して、より苦しくなるケースも少なくない。場合によっては自分が消えてなくなりたい、いなくなりたいとか、死にたいとかいう気持ちを持ってしまう場合もあるので、竹内さんがどういう状況だったのかと考えてしまう」と、状況を推察した。

大きなストレスを抱えた本人が自ら自分の気持ちを吐露できればいいが、なかなかSOSを出すのも難しい。その場合は、周りの人々のケアが必要だ。「15秒の気配りと3分の雑談を大事にしてほしいと思う。『15秒の気配り』は、自分の周りに誰か気になる人がいた時に、何しているか、今どういう状態、気持ちでいるかを考えてみてほしい。15秒、ある人のことを考えると『あの人気になるな』とか『大丈夫かな』とか『どうしてるかな』とか、いろいろな思いが出てくる」と説明。さらに「気になった人にはSNSでも電話でも対面でもいいので、ちょっと声をかけていただきたい。そこで3分ぐらい雑談してもらうといいと思う。そうすると何か様子が違うなとか、なんでこんな話をするんだろうと思うかもしれない。短い時間であっても、繰り返し雑談の機会を作ることで、変化に気付きやすくなったり、つらい気持ちにある人が話せる場を作るということにもなる」と、短く思える時間も人の救いになる可能性があると訴えた。

 この15秒の気配りと3分の雑談も、コロナ以前であれば何気なく出来ていたことかもしれない。「コロナ禍で、雑談はものすごく大事なことだったんだなと改めて感じる。そういう時間が、ソーシャルディスタンスや感染拡大予防で少なくなっている。産後で気分が落ち込んでいる方は、わけもなく泣きたくなったり気分が不安定でイライラしやすかったりする。周りの人は、自分で命を絶つことは否定しつつも、辛い気持ちは肯定して受け止めてあげて欲しいし、3分の雑談も方法の一つとして活用してもらえれば」とした。

 最後に藤井氏は、有名人の死去が相次いでいることにも言及し、「やはり私たちの人生の中で人が亡くなることは最も心理的なインパクトが大きい。いまだ辛かったり、ショックを受けている人は多くいると思う。また、今まさに辛い気持ちだったり、死にたい気持ちがある方は、現実味を感じて苦しくなっているかもしれない。それらは当たり前の反応ともいえ、だからこそ心が辛くなるような情報からは距離を置くことも時に大事だし、また、自分が考えている以外の悩みや問題の出口が必ずあると考えて欲しい。時間はかかるかもしれないが、私たちも危機を乗り越えるお手伝いを現場でしていきたい」と、呼びかけていた。

「いのちの電話」
0570-783-556
「こころの健康相談統一ダイヤル」
0570-064-556

(ABEMA/「ABEMAヒルズ」より)

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白鵬と鶴竜に「大変厳しい意見」横審で処分の声も

2020年09月29日 00時15分15秒 | 社会・文化・政治・経済

9/28(月) 19:17配信

日刊スポーツ

日本相撲協会の諮問機関である横綱審議委員会(横審=矢野弘典委員長)が、大相撲秋場所千秋楽から一夜明けた28日、東京・両国国技館で定例会合を開いた(出席7委員)。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2場所連続で中止されていたが、1月の初場所後以来、8カ月ぶりの開催となった。

【写真】正代ぐしゃぐしゃに顔崩壊 初Vと大関に涙止まらず

関脇正代の初優勝で幕を閉じた秋場所だが、横綱は白鵬(35=宮城野)、鶴竜(35=陸奥)ともに初日から休場。83年夏場所以来、複数横綱全員が37年ぶりに初日から不在という事態に陥った。白鵬の2場所連続皆勤は3年前にさかのぼり、以降の18場所で全休5場所を含め休場は11場所。ただ、皆勤した7場所で5回優勝と万全を期して出場すれば強さを発揮している。一方の鶴竜は、3場所連続休場明けで出場した今年3月の春場所は、12勝3敗の優勝次点で復活のきざしを見せたかと思われたが、故障になき2場所連続休場。鶴竜の師匠である陸奥親方(元大関霧島)が、次に出場する時は進退をかける場所になると示唆するなど、両横綱に対する横審の反応が注目されていた。

会合後に代表取材に応じた矢野委員長は、会合で両横綱に対し「横審の内規に基づいた処分をするかどうかまでの踏み込んだ、たいへん厳しい意見が出た」とした上で「今場所は、そこまで踏み込まないことにした」と「激励」などの決議は行わないことにした。その上で「横綱の自覚を待つことに注視していこうと。第一人者としての自覚をもっと徹底してもってほしい」と奮起を促した。「過去1、2年を振り返っても断続的に休場が続いている。たいへん厳しい意見が出ました」と語った。

横審の内規では、不本意な成績や休場が続く横綱に対し、委員の3分の2以上の決議があれば「激励」「注意」「引退勧告」ができると定められている。最近では稀勢の里に「激励」が言い渡されたことがある。今回は両横綱に対し「1、2人」(同委員長)の委員から何らかの決議を出すことを検討してもいいのでは、という意見があったという。
「問題意識は(委員の)共通したもので横綱は立派であってほしい。休場しても地位が守られているのは国技の象徴であるから。横綱は特別な地位であり、権利だけでなく義務も伴う。他の力士より一段と高い自己規制の基準を持つべき」と同委員長。次に出場する場所後に、その成績次第で白鵬だけ、鶴竜だけ、あるいは2人に対し、何らかの決議を下す考えを示した。それが次の11月場所なのか、その場所も休場し次に出る場所なのかについては明言を避けた。

秋場所で初優勝して大関昇進を確実にした関脇正代については「大器がようやく花を咲かせた。次の場所は3大関になる。上を目指して競って励んでほしい。以前から話しているように世代交代の時期に来ていることを強く感じている」と3大関からの横綱待望論を説いていた。さらに3人には「上(横綱)に上がる候補のには、われわれの期待を受け止めて『自分が横綱になったら』という心構えを持ってほしい。次に横綱を目指せる人は、そうたくさんはいない。強くなるだけでなく、心の準備もしておいてほしい」と期待を寄せた。

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みんなで守ろう大切ないのち ~自殺予防~

2020年09月29日 00時11分39秒 | 事件・事故
2019年8月21日

 我が国の自殺者は平成10年以降、14年連続で3万人を超えていましたが、平成24年に3万人を下回りやや減少傾向にありますが、
自殺未遂者はその10倍、さらに1人が自殺(未遂)することで周囲の5~6人は深刻な心理的影響を受けるといわれています。

自殺や自殺未遂は本人だけの問題ではなくその家族や友人・知人らに大きな精神的ダメージを及ぼす問題、誰もが出会う可能性のある身近な問題です。

自殺に至る原因としては健康問題や多重債務などの経済的な問題・家庭問題などに様々な要因が複雑に絡み合っており、背景にうつ病などのこころの病気があると言われています。

*多重債務・借金等のお悩みは千曲市消費生活相談をご利用ください。

千曲市消費生活センター 026-274-0820(直通)
月~金(祝日除く)午前8:30~5:00
予めお電話でお約束の上お越しください。
詳しくはこちら多重債務・借金問題についてをクリックしてご覧ください。

 

  • 自殺の背景に潜む心の病気で最も多いうつ病は心のエネルギーが低下する病気。病気が疑われたら早めに専門家(相談機関や専門医)に相談しましょう。
  • 自殺を考えている時は、「死」にとらわれてしまい本来の正常な心の状態ではなくなっています。
    精神的に孤立感を募らせ、「死ぬしかない」という心理的な視野狭窄の状態に陥っている場合が少なくありません。
  • 自殺を考える人のほとんどが「全ておしまいにする」とか「生きていても仕方がない」とこぼしたり、きちんと仕事をする人が投げやりな態度になったり、急に無口になったり、大切な物を処分したり等何らかのサインを出します。周囲はこれを見逃さないことが大切です。

 

死にたいと言われたら・・・

話を聞き、共感することが生きる意欲に繋がります。

  • 自殺されたほとんどの人が、誰かに死にたいと打ち明けています。
  • 誰でもよいから打ち明けたのではありません。あわてず時間をかけて話を聴いてください。
  • 本人は「苦しみから逃れたい」「でも生きていたい」という思いの中で激しく揺れ動いており、助けて欲しいと真剣な叫びを発しています。
  •  責めたり、叱咤激励することは避け、『あなたは大切な存在である』事を伝え「自殺しない」と約束してもらうことは自殺予防に有効です。

遺された人々への支援

 大切な人を自死で亡くした場合、その死が『自死』であるがゆえに残された人々は孤独になりがちです。自責の念や罪悪感が強く「なぜ」「どうして」と自問し続けたり、辛い気持ちを安心して語りあえない苦しみがあります。

 

 県精神保健福祉センターでは、遺族の皆さんの交流の場「自死遺族交流会 あすなろ会を定期的に開催しています。
    問い合わせ:☎026-227-1810(長野県精神保健福祉センター)

長野県自殺予防情報センターで詳しい情報をご覧いただけます。

 

 

~1人で悩まないで相談してください~

つらい時、不安なときの相談窓口

 

 

*ご自身のことでもご家族のことでも相談できます。
市の保健師による相談窓口 平日(月~金)8:30~17:15

     健康推進課 保健センター健康増進係   ☎026-273-1111(内線2131)

精神保健相談会  
  精神に関する病気、こころの悩み、ひきこもりなどについて、精神科医が相談に応じます。
  完全予約制
  会場:更埴保健センターまたは戸倉保健センター(9月以降は新庁舎保健センター)
 R1相談会ちらし 

県等が実施するこころの相談窓口

     ○長野保健福祉事務所主催の相談

  •  精神保健相談
  •  思春期の心の相談

     お問い合わせ・お申込み先 ☎026-225-9039 長野保健福祉事務所

 


大津市自殺対策計画

2020年09月29日 00時08分28秒 | 事件・事故

更新日:2020年06月22日

計画策定の趣旨

自殺に追い込まれるという危機は「誰にでも起こり得る危機」であり、周囲への絶望や孤立(誰も助けにならない)、無力感や無価値感(私は何をやってもダメ)、心理的視野狭窄(自殺だけが解決だ)によって死にたいと思いつめてしまうことがあります。

その一方で、自殺を思いつめてしまう人も、「生きたい」「苦しみや悩みが解決できるなら死にたくない」という思いを有しています。複雑に揺れ動く「消えてしまいたい」「死んでしまいたい」という心情に寄り添い、かけがえのない命の重みと向き合うことにより、市民一人ひとりの大切な命を明日へとつなぐ支援ができるよう、「大津市自殺対策計画」を策定しました。

計画の基本理念

自殺の背景には様々な社会的要因があり、個人の自由な意思や選択の結果ではなく、その多くは気持ちが追いつめられた末の死です。

このことは、自殺が、人が自ら命を絶つ瞬間的な行為としてだけでなく、人が命を絶たざるを得ない状況に追い込まれるプロセスとして捉える必要があることを示唆しています。

「死んでしまいたい」と考える人の心情や背景に寄り添い、自殺に追い込まれるプロセスにおいて「生きることの阻害要因(自殺のリスク要因)」を減らし、一つでも多くの「生きることの促進要因(自殺に対する保護要因)」を生み出していくことが、自殺という「誰にでも起こり得る危機」から市民一人ひとりの大切な命を守ることにつながります。

そのためには、精神保健的な視点からだけではなく、本市の様々な分野の施策をはじめ、関係機関や団体が連携し包括的な視点から生きることの支援を講じる必要があり、このことこそ自殺対策の本質と言えます。

本計画の推進により、すべての市民が今日を無事に生き、安心して明日を迎えられる社会の実現を目指します。

大津市自殺対策計画(詳細版)

表紙・はじめに・目次

大津市自殺対策計画表紙

第1章 自殺対策計画策定にあたって

  1. 計画策定の背景と趣旨
  2. 計画の位置付け及び期間

第2章 自殺対策の基本的な考え方

  1. 基本理念
  2. 計画の目標
  3. 基本的な考え方

第3章 自殺の現状と重点的な対策

  1. 大津市の自殺の状況
  2. 大津市の自殺の特徴
  3. 重点的に取り組むべき分野

第4章 自殺対策の具体的取り組み

  1. 施策体系
  2. 重点施策(市として優先すべき対策)
  3. 基本施策

第5章 計画の推進

  1. 計画の推進
  2. 計画の進行管理・評価

資料編

  1. 自殺対策に関連する相談窓口・事業等について
  2. 大津市自殺対策連絡協議会設置要綱
  3. 大津市自殺対策連絡協議会名簿
  4. 計画策定経過

大津市自殺対策計画(概要版)

この記事に関する
お問い合わせ先

健康保険部保健所 保健予防課
〒520-0047 大津市浜大津四丁目1番1号 明日都浜大津1階
電話番号:077-522-7228
ファックス番号:077-525-6161

保健予防課にメールを送る

自殺未遂者の心理と対応について

2020年09月29日 00時06分44秒 | 医科・歯科・介護

福岡大学医学部精神医学教室 衞藤 暢明

H26年8月掲載

1.死にたくなる人の心理状態について

自殺を図った(自殺行動を起こした)人を自殺企図者といいます。この人たちの心理状態には、共通する3つの状態があります。

心理的視野狭窄(※1)

苦しい状態が続いて、自殺以外の解決策が見えなくなる状態をいいます。
心理的な負荷が長くつづいた場合に、ふだん考えられることが考えられなくなり、問題の解決策も見えなくなる状態をさします。(図1)心理的視野狭窄の状態では、苦しい状態を終わらせる手段として「自殺」しか見えなくなり、その結果、自殺行動が起きることになります。

 

図1

強くて動揺する自殺念慮(※2)

自殺行動におよぶ際、ほとんどの人が「死にたい」気持ちだけではなく、一方で「生きたい」気持ちをもっています。(両価性)
また、死にたい気持ちがそのままずっと続くことはありません。(一過性)
この状態はしばしば振り子に例えられます。振り子が振れるように、死にたい気持ちと生きたい気持ちの揺れが起こり、揺れが大きくなれば大きくなるほど自殺念慮の段階(考えている状態)にとどまれなくなり、ついには自殺企図(自殺行動)に至ります。(図2)

 

図2

焦燥感(※3)

そわそわして落ち着かない、動き回る、イライラしやすい、などの行動に表れるいわゆる焦燥感は、自殺行動に移る前の重要な行動上の特徴です。焦りや不安が強まっている時には、すぐに行動に移りやすい状態といえます。

2.自殺の危険の高まった状態に対する対応

前記の3つの心理状態のいずれかがみられれば、対応において重要なことは、自殺行動に移る前にブレーキをかけることです。それぞれの心理状態に対する対応を示します。

心理的視野狭窄

まず心理的な視野を拡げる必要があります。自殺以外の具体的な問題の解決法をその人に示すことが役立ちます。

強くて動揺する自殺念慮

自殺行動に移る時には、考え(自殺念慮)を超えてしまっている場合が多く見られます。当面の対応として、その人が死にたい気持ちを話せる状態にする(とどまる)ことを目標とします。対応する人は、死にたい気持ちを話すことで、かえって自殺行動へ移る危険を増やしてしまうのではないかと心配するかもしれません。
けれども実際には死にたいという気持ちを話したから自殺行動に移るということはなく、むしろ緊張が少なくなったり、生きたい気持ちに注目しやすくなったりします。

焦燥感

すぐに行動に移る可能性が高くなった状態と言えます。安全な場所に連れて行く、自分を傷つけるような物を遠ざけるなど(自殺の手段を遠ざける)の対応を急いで行う必要があります。
また、この「焦燥感」が積極的に気持ちを落ち着ける薬(向精神薬)の使用が必要となることもあります。

3.自殺未遂者の精神医学的診断と治療の必要性

自殺未遂者の約9割以上に何らかの精神障害があります。(図3)精神障害をICD-10というWHOの分類にしたがってみてみると、さまざまな精神障害が含まれます。(※4)
それぞれの精神障害に対して専門医療機関での治療が必要になります。精神症状のコントロールを図ることで、将来の自殺企図を防ぐことができます。
自殺行動に及んで、自殺未遂者と判断された場合には基本的に精神科的治療が必要です。

 

図3

4.死にたい気持ち(自殺念慮)への対応

家族に対する心理教育の中で、自殺を考えていると打ち明けられた場合の具体的対応の方法として、「TALKの原則」(表1)(※5)があります。

TALKの原則

Tell はっきり言葉に出して「あなたのことを心配している」と伝える。
Ask 死にたいと思っているかどうか、率直に尋ねる。
Listen 相手の絶望的な気持ちを徹底的に傾聴する。絶望的な気持ちを一生懸命受け止めて聞き役に回る。
Keep safe 危ないと思ったら、まず本人の安全を確保し周囲の人の協力を得て、適切な対処をする。

5.相談窓口の紹介

死にたい気持ちに関連した問題を解決する上で、それぞれの相談窓口を通じて支援を受けることができます。できるだけ早い時期に相談先を決める必要があります。(※6)

参考文献

※1)高橋祥友,福間詳:自殺予防教育.自殺のポストベンション 遺された人々の心のケア, 医学書院,東京,pp109-124, 2004
※2)衞藤暢明:自殺予防には人材教育が不可欠!当院の自殺予防人材養成プログラムの要点を具体的に紹介します.精神看護14(6):11-25, 2011
※3)エドウィン・S・シュナイドマン(著),高橋祥友(訳):自殺のシナリオ.シュナイドマンの自殺学 自己破壊行動に対する臨床的アプローチ,金剛出版,東京,pp33-48, 2004
※4)衞藤暢明, 西村良二:心理教育.精神科救急における治療戦略.臨床精神医学43(5):763-768,2014
※5)高橋祥友.自殺予防プログラムとは何か.新訂増補 青少年のための自殺予防マニュアル.高橋祥友編著.東京,金剛出版, pp29-45. 2008
※6)衞藤暢明、松尾真裕子:自殺企図者へのアプローチ シーン別アプローチ② 入院、帰宅、転院調整および他職種との連携編. EMERGENCY CARE24(11);29-36,2011