みつとみ俊郎のダイアリー

音楽家みつとみ俊郎の日記です。伊豆高原の自宅で、脳出血で半身麻痺の妻の介護をしながら暮らしています。

ジャクリーヌ・デュ・プレとダニエル・バレンボイム

2011-11-06 20:57:25 | Weblog
この二人の天才アーティストのカップルの本当の姿は一体どんなだったのだろう?
最近そんなことをよく考える。

多発性硬化症で若くしてこの世を去ったチェリストと天才ピアニストで名指揮者と呼ばれる二人のアーティストの夫婦生活が垣間描かれているのが『本当のジャクリーヌ・デュ・プレ』という映画(デュ・プレの家族が書いた『風のジャクリーヌ』という原作が映画化されたもの)だが、彼らとは縁もゆかりもない全くの赤の他人の私としてはこの映画の中で描かれている二人の姿が本当のことだったのかどうかはまったくわからない。
この映画の中のジャクリーヌはかなりエキセントリックな女性に描かれている。
自分の姉のご主人を無理矢理ベッドに誘うようないわば常識はずれの女性に描かれているが問題はそんなことではない。
ジャクリーヌがこの難病を発症した後の夫バレンボイムの行動が本当はどうだったのかということ。
当事者ではない私には所詮真相を理解することはできないのかもしれないが、彼女が病気を発症した時(その当時大学生だった私はデュ・プレの病気のニュースをリアルタイムで聞いていた)私に印象として残ったのはバレンボイムが難病で苦しむジャクリーヌを見捨てしまったのではないのか?ということ。
実際の二人の間にどんな葛藤や戦いがあったのかは全くわからない。
夫婦の問題は他人には絶対に理解しえないものがある。
ましてや片一方が死に行く病を患っている夫婦の間でどんな会話がなされどんな葛藤が起こっていたかなどおそらく想像を絶するものがあったはずだ。
だとしたらなおさら私の印象にもこの映画の中でのジャクリーヌという天才チェリストの描かれ方にもあまりにも救いがないのはどうしてなのか? とつい思ってしまう。

毎日同じリハビリ病院で顔をあわせる入院患者のご主人がいる。
世代的にはとても近いのではないかと思えるのだが会話を交わしたことはない。
ただ、いつも見せる彼の笑顔の中に私の心の中の思いと共通したものを感じ私もいつも微笑みを返している。
あの笑顔があれば彼の奥さんも毎日幸せな気持ちを持っていられるのではないだろうか。

結局病気を治すことはできなかったにせよ、この稀有の天才音楽家ジャクリーヌ・デュ・プレという人の最後が本当に安らかで幸せに満ちたものであったことを願わずにはいられない。
「彼女はまさしくはこの曲を演奏するためにこの世にやってきた」と思えるほどの名曲、名演奏のエルガーのチェロ協奏曲を聞くたびに私は病床のジャクリーヌを思い涙せずにはいられない。