「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

Kono method for dementia treatment 認知症治療のコウノメソッド 2014・02・27

2014-02-27 07:50:00 | Weblog


Dr. Kazuhiko Kono, a 56-year-old Japanese medical doctor is not popular in the local medical fraternity nor academic
society, but he becomes increasingly popular in Japan as an experienced medical practitioner in the realm of the treatment of
dementia, such as Alzheimer's disease, Pick's disease (Frontotemporal lobar degeneration), etc.

His practical method of treatment, known as "Kono method" has been devised by him since 2007 on the basis of a numerous
number of his daily treatments for dementia patients nearly for the past 30 years in the local hospitals as well as his own
"Nagoya Forest Clinic" located in Nagoya, Japan.

He is very eager to familialize his "Kono method" all over Japan and has been opening it in "Dr. Kono's Dementia Blog"
(http://dr-kono.blogzine.jp) and many other publications (in Japanese).
In his blog and publications he shows many examples of treatment with patient pictures and his unique prescriptions as well.
Nowadays he occasionally gives lectures for doctors, by request, on "Kono method" among many parts of the country in spare
moments from his daily treatment work.

"Kono method" is evolving year by year and the latest version, "Kono method 2014 (PDF)" is released on the homepage of Dr. Kono's
"Nagoya Forest Clinic".

By the way he is a member of IPA(International Psychogeriatric Association).



今日の「お気に入り」は、名古屋フォレストクリニック院長、河野和彦氏(1958- )の著書「コウノメソッドでみる認知症処方セレクション」の「あとがき」です。わが国の認知症治療の第一人者として知られ、30年近い臨床経験を通じて確立した認知症の診断・治療ノウハウ「コウノメソッド」を広く一般に公開している河野和彦医師が、医家向けに執筆し、2013年11月に出版されたものです。医家ならぬ身の小生が読んでも大変参考になった本で、この「あとがき」には、河野医師が認知症診療にかける熱意が込められています。医家に向けた檄文です。

認知症患者を身内に持つ方には、河野和彦医師が、一般向けに書かれた「新しい認知症ケア‐医療編」(講談社刊)がお勧めです。家族(介護者)が賢くならねば、認知症患者の命を守ることは出来ません。

筆者には医師としてのトラウマがたくさんあります。30年以上も前から診療報酬も得られない認知症へのリハビリテーションを実行してきた山本孝之先生(愛知県豊橋市)に師事し、10年間の間に数えきれない認知症患者を診察させて頂き、全員のCT画像をにらみつけてきました。
 現場では山本先生のようなこれだけ熱意のある医師がいるというのに、医学会を構成する一部の人たちは何か別の人種なのかと思うことが、その後何度も起こりました。アルツハイマー型認知症の認知機能が作業療法、音楽療法で改善したことを発表すると、ある神経内科教授から『改善したのならアルツハイマーではない』とバッサリ告げられましたこの学会を構成する人たちの冷めた目というのは、いったい何なのだろうと愕然としました
 高名な精神科名誉教授から認知症患者を紹介されたときは胸躍りました。ピック病のその女性は劇的に改善して、その後5年間独居生活を続けることができました。改善前後の写真を名誉教授に送ったところ、『本気でピック病だと報告するつもりか』と咎められました。神経細胞が進行性に減じてゆく変性疾患が『治る』という発言や、『奇跡』などという言葉を使うような医師は科学者として認められないという、確たるスタンスがあることを感じました
 筆者自身も、これだけ著明に改善すると、もしかしてこの患者はピック病ではないのではないか、と不安にかられることもあります。筆者は臆病で卑怯な人間です。正直に告白しますが、本書で紹介した改善症例を学会や論文で発表する気はありません
 コウノメソッドも、プラセボ(偽薬)群を平等に設けて統計処理し、科学的に効果があると証明して論文を投稿すれば急速に普及するのかもしれませんしかし、筆者は大事な患者を1人ですらプラセボ群に選ぶつもりにはなれません自分が繰り出す処方は必ず効果があると信じているのに、なぜプラセボ群(改善の可能性を奪われた患者群)を設けなければならないのでしょうか
 プラセボ群を設定できない医師など学会への出入りは禁止です筆者は学会との決別を決め、1人で戦う意志を固めました幸い、医師への出版流通を得意とする日本医事新報社から執筆の依頼を受けることができ、渾身の書『コウノメソッドでみる認知症診療』が2012年10月についに世に出たのです発売からわずか40日で第2刷が決まり、ロングセラーの兆候をみせはじめています日本医事新報社からはすぐに第2弾の話があり、著効例を紹介する体裁に決めたのが本書ということになります
 日本医事新報社刊の第1弾は、筆者の久々の認知症総説でしたし、アルツハイマー型認知症の新薬に関する情報掲載がわが国で最も早かったために、ほかの医学書には追随できない内容であったと確信しています。この本をきっかけに医師の間で急速にコウノメソッドの認知度は高まり、大型書店では『コウノメソッドの本がほしい』と指名されるようになり、インターネット書店 amazon.co.jp の老年医学ベストセラーにおいては21位以内に過去の小著も含めて7冊がランクイン(2013年3月1日現在)する現象を起こしました。

 第2弾の話があったとき、筆者はすぐに著効症例を100例くらい提示するものがいいだろうと考えました。『認知症ブログ』で年間1,000枚のスライドを提供している筆者にとっては容易なことです。
 筆者が医学書を書くときに大事だと思っていることは『具体性』『きれいごとを書かない』の2点です。患者の姿を見て頂くことこそが具体性そのものだと思います。薬も詳細な用量を示さないと患者さんを安全に確実に治すことはできません。
 CTなどの画像診断機器をもたない実地医家は、患者のしぐさ、雰囲気、話し方、歩き方から診断を導き、経験的に安全な処方ができる素晴らしい医師です。脳血流シンチグラフィやMRIなどの画像ばかり見ている先生方は、患者を置き去りにしていったい何をしているのだろうと思います典型例を1週間入院させて精査を行い、結局そのほとんどをアルツハイマー型認知症と診断してドネべジル(アリセプト®)だけを処方するのです
 東京の研究会で故・田邉敬貴教授が、演者に『いろいろと画像を見せてくれるのはいいが、患者の顔とか姿勢の写真を見せてほしい』と注文したことが忘れられません。臨床の鬼が初めて口を開いた強烈な批判だったと筆者は感じました。こういう尊敬できる教授が1人いただけで、筆者のトラウマは癒された気がします。

『認知症ブログ』が100万アクセスに到達した朝、筆者は読者へのメッセージとして”臨床的完治”という概念を紹介しました。筆者は29年間の認知症診療の中で、確かに数%の患者が『完治』したと認識しています。病理学的に重度の障害を示している患者でも、要介護3から要支援1になって独居のまま天寿をまっとうしたケースは、臨床的には認知症とは定義できない状態で亡くなられたといえるのです。
 臨床医は病理学の奴隷ではありません。臨床的に要介護でなくなれば『治った』と堂々と言えばいいのです処方も個々の患者にマッチした用量であれば、レセプトに迎合すべきではありません週に1回休薬したほうが調子がいいということはいくらでもあります薬物の脳内濃度などだれにも測定できないのですから、薬理学者の血中濃度理論だけで薬を飲ませてはならないのです患者を守れるのは臨床医だけなのです

 臨床医は幸福な職業です改善したら患者からお礼を言ってもらえます。新薬を懸命に創出した研究者はだれからも直接感謝されません。それを思うと、本書に掲載した改善された方々の姿をぜひ基礎研究者の皆さんに贈りたい気持ちです。基礎研究はこれほど社会の役に立っているのだと教えてさしあげたいです。
 ですから、臨床医は楽をしてはならないのです与えられた薬を錠剤のまま無造作に患者に飲ませてはならないこともあります1/2、1/3の量で細心の注意を払ってテーラーメイド処方をして頂きたいのです『やっぱり認知症だから治らない』『この新薬は効かない』と簡単に投げ出さないで下さい何か工夫したら効くのではないかと大いに粘ってほしい、祈るような気持ちで調合してほしいのです
 コウノメソッドは常識破り――クロルプロマジン(ウィンタミン®)やシチコリン(ニコリン®H)注射など、筆者が用いる薬剤には、一般にはあまり用いられなくなった古い薬剤も含まれていますですが、患者を治す手段は患者が教えてくれますそれがたまたま古い薬であっただけです新薬がより効くものだとだれが決めたのでしょうかむしろ新薬の副作用のほうが重い傾向があると思いませんかコウノメソッドは、数万という筆者の犯した失敗を礎につくられたピラミッドですこの患者の教えてくれた方法に背くような処方は、必ず症状の悪化という形で返ってくるでしょう

 最後に、認知症が治ることに懐疑的な方々にメッセージを送ります認知症は治らないのではなく、あなたに治す力がないのです治らないことを病気や薬のせいにしてはなりません外科医はミスをしたら患者は死んでしまいます内科系の医師も、治せないことをもっと真剣に反省してほしい、必死で治す方法を毎日考えてほしいと思います

 コウノメソッドが学会や大学で取り上げられることは未来永劫ないでしょうですから細々と文章で皆さんに伝えるしか手段がありません江戸時代の緒方洪庵と同じようにですしかし、小著や『認知症ブログ』で筆者の考えに陰ながら同調して頂ける医師が1人でもおられるなら、認知症患者を1人助けられる、と筆者は少し晴れやかな気持ちになれるのです
                                                    2013年10月 著 者   」

(河野和彦著「コウノメソッドでみる認知症処方セレクション」日本医事新報社刊 所収)


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