「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

大きいもの 2014・05・13

2014-05-13 07:20:00 | Weblog


今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

大きいものはいいものだというが、冗談だろうと、私は書いたことがある大きいものは悪いものだ大新聞、大銀行、大デパートと並べてみると分るみな大きくて、悪いものである」。

(中略)

「はじめに私は経営者としての松下幸之助、文士としての山本周五郎両氏は、ほめものだといった。悪くいうものがない。このくらいないと、悪くいうことは禁物だといった。
 松下幸之助氏は松下系の会社の親玉である。鬱然たる存在である。ついでに修身のかたまりである。PHPという雑誌を主宰して、毎号ありがたい話を書いている。PHPは百万部近く売れるという。松下氏は読者をもっている。
 言うまでもなく私は、松下氏とは縁もゆかりもない。山本周五郎氏とは、たまたま同姓ではあるけれど、同じく赤の他人である。
 私はちっぽけな法人の経営者である。私は私の会社を経営して二十年になるが、大きくもならなければ小さくもならない。ならないのではない、なれないのだと私は私を見限っている。経営者として私は落第である。その代り潔白である。ワイロは使わないし、貰わない。社用の交際費を私用には使わない。これが潔白でなくて何だろうと思われるほどだが、その私でさえ、よいことばかりしていては、二十年つぶれないでいることはできない。やっぱり悪事は働くのである
 松下さんは大きい。金もあるし、人手もある。どうしてあんなに大きいものが、清く正しくいられるだろう。小さいこと豆粒大の会社でさえ悪いのに、巨大な会社が悪くない道理がない。いくらPHPといわれても、承知できない。」
 
(中略)

 私は正義がいつも大きいものの上にあるのを怪しく思うものである有利なものの上にあるのを疑うものである正義はしばしば小さいものの方に、また不利なものの方にあると、弱年のとき私は聞いたことがある

                                     〔『諸君!』昭和48年4月号〕」

(山本夏彦著「とかくこの世はダメとムダ」講談社刊 所収)



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