「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2014・05・26

2014-05-26 06:50:00 | Weblog


今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

「島崎藤村は時代を明治時代、大正時代、昭和時代と元号によって分けないほうがいいと言った。この分けかただと誤解が生じる。
 明治は大正十二年の大震災まで残っていた。この震災で東京はまる焼けになった。焼けるまでは明治の続き、したがって江戸の名残もわずかではあるが残っていた。
 その名残は震災によって跡かたもなく消えうせた。それまでは芝居といえば歌舞伎で、これを見ないものはなかった。見なくても多く講談落語を介して知っていた。昭和になってから芝居噺(ばなし)がすたったのは、本家本もとの芝居の見物が激減したからである。したがって声色(こわいろ)もすたった。
                                     〔『諸君!』平成十ニ年十月号〕」

(山本夏彦著「最後の波の音」文春文庫 所収)



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