「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

大きいもの 2014・05・16

2014-05-16 08:50:00 | Weblog


今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

大きいものはいいものだというが、冗談だろうと、私は書いたことがある大きいものは悪いものだ大新聞、大銀行、大デパートと並べてみると分るみな大きくて、悪いものである」。

(中略)

「曲軒、山本周五郎氏は、長編を書き終えると、その関係者一同を料理屋へ招いて、一夕大盤振舞いをするのを例としたという。その席の給仕に出た芸者たちは、あとで周五郎氏をほめちぎったという。あたしたちを人間として扱ってくれたのは、周五郎先生を以てはじめてとする、云々。
 美しい話、立派な話だと皆々感服する。けれども、女給はホステスと名を改め、芸者は料理屋の女中に、お譲さんと呼ばれて久しくなる。ホステスや芸者は人もなげな振舞いをして、客より威張るようになった。客も女中も、はれものにさわるようになった。この美談は昔の修身そっくりで、うろんである。作者と人格者とつむじ曲りは、そもそも共に矛盾し、角逐する概念ではないか。それに、あんなによく売れる言論が、真であり善であり美であることが可能だろうか。」

(中略)

 私は正義がいつも大きいものの上にあるのを怪しく思うものである有利なものの上にあるのを疑うものである正義はしばしば小さいものの方に、また不利なものの方にあると、弱年のとき私は聞いたことがある

                                     〔『諸君!』昭和48年4月号〕」

(山本夏彦著「とかくこの世はダメとムダ」講談社刊 所収)



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