今日の「 お気に入り 」。
「 ・・・ 動物園でずっと一頭で飼われていたゴリラは異性とお見合いをさせてもうまくいきません 。交尾も
できないし 、うまく同居することさえできない 。同居したメスに強いストレスを受けてショックで死んで
しまうオスもいます 。人間としか付き合ってこなかったために 、たぶんメスの勢いに押されて上手に自己
主張できないのだと思います 。
動物園のゴリラは小さいころに仲間と遊んだ経験がありません 。自分の身体を介在させながら 、どうし
たら相手に気に入られるかということを身体感覚で覚えていないから 、異性と出会ったときに 、相手に気
に入られるためにどう振る舞ったらいいかが分からないのです 。
人間も同じで 、あるときに友だちのつくり方を受験勉強のように頭に叩 ( たた ) き込めばできるようになる
というものではないんです 。遊びや付き合いのなかで 、自己主張したり 、逆に相手の主張に耳を傾けたり 、
無意識のうちに身体が動いたり 、自分をちょっと抑制してみるというような 、体験的な学習が必要になっ
てきます 。だから 、大学に入って急に『 さあ 、友だちをつくろう 』と思っても簡単にはいかないでしょう 。
世の中には時間をかけなければ 、どうしてもできないものがある 。どれほど科学技術が発達しても 、子
どもが成長していく時間や 、友だちづくりは決して効率化できません 。どうしたって時間が必要なのです 。
では小さいころにそういう経験をしないまま成長してしまった場合 、いったいどうすればいいかと言っ
たら 、生きたものと付き合うことが 、もしかしたら一つの突破口になるかもしれません 。たとえば 、自
然の中に身を置くと 、自分では予想もつかないことがいくらでも起こります 。
ジャングルを歩いていると 、突然 、蛇が出てくるかもしれないし 、ばったりゾウに出くわすかもしれ
ない 。草を分け入ってみたらゴリラと鉢合わせ 、ということだってあるわけです 。ある程度 、何が起こ
るか予測のつく町中とは違って何が降って湧いてくるか分かりません 。そういう自然の中では100パー
セント正解ではなくても 、決定的な間違いはしないという鷹揚 ( おうよう ) さが必要です 。そのためには
いろいろな体験を通じながら 、どうやって反応したらいいのかをその都度身をもって覚えていくよりほか
ありません 。そのうえで 、いつ何が起こってもいいような『 構え 』をしておくことです 。自然との付き
合いは 、良い訓練の場になると思います 。
それから 、相手と付き合うときには 、相手の反応を引き出すように自分が反応することも必要です 。
相手を止めるような反応をしてしまうと 、相手を萎縮させてしまったり 、最悪の場合 、相手を逃がして
しまいます 。そういうことは子どものころにケンカ別れをしたり 、仲直りしたりしながら覚えていくも
のなのです 。 」
( 出典:山極寿一著 「 京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ 」. 朝日新聞出版 刊 )
