今日の「 お気に入り 」 。
「 私たちは 夫婦や恋人同士で一緒に食事をしたり 、映画や旅行に行くことがありますが 、
一緒に何かを食べた 、何かを観(み)たということよりも 、一緒にいることそのものに意味
があると私はとらえています 。つまり 、互いの時間を合わせたということに意味がある
のです 。『 私はあなたのために自分の時間を捧げました 。これからも捧げようと思って
います 』という意思表示は 、実は愛の誓いなんですね 。
時間の価値に関しては親子間のことを思い浮かべると 、分かりやすいかもしれません 。
親子が親子でいられるのは 、親が子に対して与える時間が長いからです 。
小さいころに異性の親に親しく世話をしてもらった場合 、思春期になると娘は父親を 、
息子は母親を嫌いになり葛藤が生じる 。その結果 、娘も息子も家庭の外に自分のパート
ナーを見つけるようになります 。これをウェスタ―マーク・エフェクトと呼んでいます 。
小さいころに親しく付き合っていなければ 、性的衝動を覚えてしまう可能性がある 。子
供のころに親しい関係にあるからこそ 、親子や兄弟姉妹は性的な関係を前提にせずに 、
子どもが成長してからも親しく付き合うことができるのです 。つまり、付き合った時間
の長さや密度によって 、子どもと親は親子になれるというわけです 。」
( 中 略 )
「 今は 、プライベートな時間やプライベートな空間が非常に重視されて 、『 私は今〇
〇をしに来ているのだから 、あなたとは付き合えません 』ということが前提になってい
ます 。それが 、たとえぶらぶらしている時間であってもです 。そばにいるときでさえ
お互いに時間を分け合うことなく 、私は私の時間を生きていて 、あなたはあなたの時間
を生きている 。そこには大きな壁がある 。
みんながすごく忙しくなっているんですね 。逆説的に聞こえるかもしれませんが 、み
んながそれぞれ自分の時間を生き始めたために忙しくなってしまった 。『 みんなの時間 』
を生きていない 。あるいは 、『 他人の時間 』を生きようと思っていないのです 。」
( つづく )
( 出典:山極寿一著 「 京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ 」. 朝日新聞出版 刊 )