肉の内臓の串焼き
『桂林雑技バレエ団』を観た後、私たちはホテルに送られた。
もう少し、遊びたい・・・
私たちはその日も桂林の夜を楽しむことにした。
まずはコンビに。
今夜の酒や翌日の水やジュース。
各地のお菓子も、毎夜コンビニや近くの中国人相手の店で購入。
四日目ともなると、各地の土産の菓子は着実に旅行かばんを占領し始めていた。
クリスマスの夜は長い。
そしてここ桂林の夜もにぎやかで、店のあちらこちらから 賑やかな声が聞こえてくる。
小腹が空いたので、私たちは店を探し始めた。
前日は桂林の高級店だったので、こんばんは庶民的なところを体験したい・・・
誰が言い出すわけでもなく、中国らしい庶民食堂を探し、一軒の店にたどり着いた。
店の入り口には、メニューが手書き。
店の前には炭火焼の串焼き材料が並べてあった。
私たちは覗き込むと、愛想良く対応してくれる。
値段は大体のものが、一串一元だという。
ナスやとうもろこしやにら・・・海老や牡蠣(これは殻付き)や柿餅の串焼き材料のほかに、私たちの知らない部位の肉が並べられている。
私たちは試しに 海老二串、にら、豆腐、砂刷りのほかなんだかわからない肉の内蔵など、合計でとりあえず十串だけ頼んでみることにした。
少ない頼み方にもかかわらず、店主と従業員は気前良く、店に入れと勧めてくれる。
なんだか申し訳ない。
私たちはビールを二本頼む。
串が焼きあがるまで、私たちは店内でビールを楽しむことにした。
その店は中国人以外はおおよそ入らないだろうといった、興味をそそる店だった。
店は清潔に掃除されているが、伝統は少し暗く感じる。
広い店内の中には簡素なテーブルが並べられている。
店の隅には特別室のような隔離された狭い一室が要されている。
すりガラスだが、中の様子はうかがえる・・・
中では背広姿の中国人七、八人が騒いでいる。
年のころは四、五十歳の男性グループ。
何人かが帰ったかと思うと、またタクシーで戻ってくる。
帰った人数より、戻る人数の方が多い。
私たちの隣のテーブルには、女性三人が座っている。
なんだかおかゆのようなものを食べている。
中国では簡単な夜食を食べる習慣があるという。
彼女たちはのこやかに私たちを見ていた。
串が焼けてきた。
海老が美味い。
にらも美味い。
なんだかわからない部位の肉も美味かった。
豆腐は少し塩が効きすぎのようだ。
ビールが進む。
私は家族の視線に後押しされて、二十数本の串焼きを追加しにいく。
柿餅や牡蠣、その他いろいろ・・・
この世のビールが進んだことは言うまでもない。
後でわかったことだが、なんだかわからない部位の肉はどうも羊の血管らしいことが判明。
中国では豚や羊の血液さえも羊羹状にして、火鍋料理に使うという。
一つは何とかわかったが、後の肉の部位はわからなかった。
日本では食べたことのない内臓部分であったことは確かのようだが、思いの他、味が良かったことに驚きを隠しえない。
学生時代は開口健のことばを信じて沖縄のうりずん・とうふようや 和田金のすき焼き(といってもツアーに一人参加)に行ったことがある。
彼を信用していたが、内臓部分はスペインの持つ煮込みくらいしか、手を出したことが無かった。(こぎれいな肝料理などはここでは省かせていただきます。)
見た目は悪いが、こんなにも美味だったのか・・・
今になって、開口健の気持ちが少しわかるような気がする。
串焼きは基本は塩味だが、牡蠣においては豆板醤で味付けされていた。
『しめしめ、これは家庭でもいただきだな・・・』
私はほくそ笑む。
気が付くと隣席の三人の若い女性が、私たちが頼んだ串焼きをみている。
「ハオチー(美味しい)」
隣のテーブルも
「ハオチ」
私が
「ハオチー、ハォチイ、ハウチイ・・・」
と楽しんでいると、子どもに叱られた。
「お母さん、発音間違いだよ。」
めげない私。
初めて肉の部位の串焼きの美味さに感無量、その夜は呪文のように
「ハオチー、ハォチイ、ハウチイ・・・」
と、唱えていた。
おおよそクリスマスとは思えない、ずっこけた夜でした。