「携帯は止めてください。
マナー違反ですよ」
バスの車内に、運転手の声が響いた。
気づかなかったが、誰かが携帯で話していたらしい。
それを見逃さすちゃんと注意するとは。
なんとも男前な運転手である。
次のバス停で、ヘッドフォンをした女性客が乗ってきた。
こいつが耳から音が漏れる漏れる。
信号でバスが止まると、
車内中に歌詞まで聞き取れるほど、
大きな音で漏れている。
かなり迷惑だ。
だが、運転手は注意しない。
いや、できない。
「車内ではヘッドフォンで音楽を聞いてはいけない」
というマナーがないからだ。
先ほどの携帯電話よりも、
明らかにこちらの方が迷惑だというのに。
ルールがあれば強く規制できる。
逆にルールがなければ、なにもできない。なにもしない。
この状況は黒いコメディを予感させる。
グロテスクに拡大してみたいものだ。