今から40年近く前、NHKで「大草原の小さな家」というドラマをやっていた。ローラ・インガルス・ワイルダー(1867生まれ)の書いた全10巻ぐらいの自伝的物語が原作になっている。アメリカ西部開拓時代に、少女ローラが家族と共に、ウィスコンシン州からオクラホマ州、ミネソタ州、サウス・ダコダ州へと移り住みながら、大自然の中で成長していく物語である。
ウィスコンシンは五大湖の隣の寒冷な地方で森が広がっていたが、そこから移住した先は、まさにアメリカ大平原(プレーリー)の南から北から真ん中までのあちこちで、どこまでも続く大草原の中なのだった。
物語の終わりの方のサウス・ダコダ州での暮らしの中に、竜巻が何度も出てくる。竜巻が家を巻き上げ、3日後にその同じ場所にドアだけが無傷で落ちてきたとか、子どもが巻き上げられ、なぜか全裸で元の場所から3キロ離れた地上に落ちてきて、そこから歩いて帰ってきたが、しっかりひもで縛った靴までもがなくなっていたとか。もちろん亡くなった人の話も多く出てくるし、農作物も被害に遭い、竜巻の後に降ってくる雹で再度被害に遭ったりしているのだ。
そこが竜巻の地であるということは、開拓に入ったばかりの人も知っていたらしく、ローラたちも、それまでのほかの土地では地下室など作ったことはなかったけれど、サウスダコダでは初めから地下室を作り、竜巻が来たら避難していた。
私はこの3月まで半年ほど、日本の戦後開拓の人の話を聞き書きしていてため、改めて少女時代に大好きだったローラの開拓物語を読み返していたところだった。何度も出てくる竜巻の話の中で、もっとも克明に描かれている部分を、まさにちょうど読みかかったところだった。『はじめの四年間』、この中から下に引用する。
ちなみに、ローラは今回大被害のあったオクラホマ州にも1年間住んでいたが、ニュースで見る竜巻銀座と考えられている地帯から、ローラたちの住んでいたところは外れているようで、そこに住んでいたときは地下室は作っていなかったし、竜巻の話も出てこない。
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朝方、風は南から激しく吹いていたけれど、もうやんでいた。ところが、北の方で雲がもくもくとわきあがっているのが見えたのだ。空の奥に真っ黒な壁ができていて、そのまえで雲が渦を巻いている。すでに風がおこって、南から強く吹きつけてくる。ローラが見ていると、じょうごの形をしたおそろしい雲が、黒い壁からその指先を地面にむけてにゅっとのばしてきた。あたりに緑がかった光が走ったとき、ローラはやにわにローズをだきかかえて、家の中へかけこんだ。そして、すばやくすべてのドアと窓をしめてから、食料部屋へとびこみ、窓からまた嵐を見ようとした。
じょうご形の雲の指が地面にふれ、見るまにほこりが巻きあがった。耕したばかりの畑の上をかすめると、芝土のかたまりがもちあがって、見えなくなった。次に、その指は古い干し草山につきささった。ぼわーっと干し草がもちあがり、あっという間に山は消えてしまった。じょうごの指は家にむかって進んでくる。ローラは食料部屋のはね戸をもちあげて、ローズを連れ、中へ入り、戸をバタンとおろし、おおあわてで階段をおりて地下室へ逃げた。しっかりローズをだきしめたまま、真っ暗なすみっこにちぢこまり、頭の上の方から聞こえる風の金切り声を聞きながら、今にも家がもちあがって、どこかへ吹きとばされてしまうのではないかとおびえていた。
けれど、何ごともおこらなかった。何時間とも思われたけれど、ほんの数分ののちに、マンリーが呼んでいる声が聞こえた。
はね戸をあげて、ローラはローズをかかえ、階段をのぼった。マンリーが庭にいて、二頭の馬のそばに立ち、嵐が去っていくのを見ていた。マンリーがいるところから北側へ四百メートルもないあたりを東へむかって通りすぎていったそうだ。行く先ざきで、建物や干し草山をなぎたおし、でも、ばりばりに乾いた地面にほんのおしめり程度の雨を降らせただけだった。町にいたマンリーは、嵐の雲を見て、ローラとローズだけにしておいては心配なので、おおいそぎでもどってきたのだった。
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現在のアメリカのニュースを見ていると、アメリカ大陸の自然の厳しさはなかなか伝わってこない。ハリケーンと、ミシシッピ川の氾濫ぐらいしか思い当らないのだが、ローラの物語を読むと、本当に気候が厳しく自然災害の多いところで、暮らしていくのが容易ではないと感じる。あんなところで農業を行い、現在農業大国となっていることは、ある意味すごいかもしれない。
今回の竜巻被害で、アメリカの自然の怖さを改めて感じた。被害に遭われた方にお見舞い申し上げたい。
写真/タイムの花
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