甘柿というのは意外なことに田舎よりも都市近郊のお庭によくある。うちの実家がまさにそうだし、私の丘の家の方もそうだ。田んぼも畑もない農家ではない家庭が、庭に植えて秋の味覚を楽しむ。
意外に知られてないのだけど、生まれつき甘柿というのはないということで、すべて渋柿に甘柿を接ぎ木しているのである。よって、野山に勝手に生えている柿は全部渋柿である。
柿は結構よく野生で生えている。その種をばらまいているのは誰かというと、カラスとタヌキとおそらくサルとときどきツキノワグマである。ハクビシンなんかも柿を食べそうな気がする。アライグマやアナグマのことはよく知らない。そういうのが柿をどこかへ持って行って食べたり、その場で種ごと食べて、違うところで糞をして種子散布に協力しているのである。
そういえば3日ほど前の記事で、うちの柿が意外にカラスに行儀よく食べられているということを書いたのだが → 柿採りにいそしむ - 山里ひぐらしの小径
じつは実を丸ごときれいにかっさらわれていて、カラスに取られていることに気づいていなかったという疑惑がある。愛知県の知人が、近所でカラスが柿の枝から実をさっともぎとってくわえてはどこかへ運んでいるのを目撃したというのである。
で、冒頭の話であるが、山里、それも標高500mとか600mを超えるようなちょっと奥まった山里に植えてある大きな柿は、渋柿である。というのは、甘柿より渋柿の方が標高の高いところまでいけるからである。1000mを超えるぐらいになると渋柿も無理になってくると思うが。それは、甘柿を高いところで植えても甘くならないということなのか、甘柿の木自体が育つことができないのか、よく分からないのだけど、そういう高いところでは平べったい次郎柿的なものを見ることはなく、縦に長い蜂屋柿とか富士柿というようなものばかりである。
そして、甘柿も干せば干し柿になるだろうが、あまりうまくできないらしい。ということは、渋柿の方が保存が効くし、長い間おいしく食べられるということになる。
山里の人たちは、秋に採れたものを保存することに余念がない。かつてはそれができなければ生き延びられなかったからそういう習慣が身についている。収穫物を保存してはそれで一年食いつなぐというのが山村民の暮らしであり、保存すること自体が農作業の一環である。よって、秋になると渋柿を収穫して、夜な夜な皮をむいて干すということが一年のサイクルの中に組み込まれている。米を収穫して干して脱穀したり、豆を収穫して干して殻を取ったり、白菜を収穫して干して塩で漬けたりというような仕事の一つとして、干し柿づくりがあるのである。
そして、冬に山里の家にお邪魔すると、たいていはこたつのおともとして干し柿を出してくれる。そのおいしいことといったら。冬も進んでくると硬くなるけど、冬の初めのころのものはまだ軟らかくて中がジューシーで、思わずおかわりなどしてしまうのである。
けど、柿は食べすぎると冷えるので調子に乗っていくつも食べるのはやめましょう……。
★山麓散歩動画(3分弱)↓