ダンチクは四国や瀬戸内の海ぎわの崖のようなところにわんさかわんさかと生い茂っている。
私の住んでいる岐阜県の山間地では全く見ないし、愛知県の海辺でも見ない。
愛知県の海辺ではそのようなところに大体メダケが生えている。
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和歌山県印南町に行くと、海辺だけでなく、少し山あいでも、川べりや山裾によく生えている。
それらはみんな自生だと思っていたら、山あいや川べりのものは、植えているのだそうだ。
川は私有地ではないのだけど、そこに植えてあるものは所有者が決まっていて、その人が管理しているということだ。
ダンチクをわざわざ植えるのは、その葉で巻いた「あせ寿司」を作るためである。
ダンチクにも個体差があって、葉の幅の広いいいダンチクや、それほどよくないダンチクがある。いいダンチクがあると、その根をもらってきて川べりに植える。成長したら、毎年2月に地上部を刈り込む。そうすると秋には幅の広いいい葉を収穫することができる。それをしないと、だんだんと葉が小さくなっていくそうだ。また、2月以外の時期に刈り込むとなくなってしまうらしい。ということは、生い茂るダンチクに手を焼いている場合には2月以外に刈り込めばいいということになる。そんなに簡単にダンチクがなくなるとは思えないけど、そういう話だ。
よそのダンチクをもらうときには、「おくれよー」と声をかけてから伐らせてもらうのがマナーである。
海辺の地方ではいたるところにダンチクが生えているので、勝手に採ってはいけないなどとは考えもしないで、好きなように採る。自分の家のダンチクなど決まっていない。
山手にいくほどダンチクの葉は幅が狭くなっていき、隣の龍神村との境の辺りではもう寿司にダンチクは使うことなく、芭蕉の葉を使っている。葉蘭を使う家もあるらしい。山手ではダンチクは見向きもされず放置されている。
ダンチクを梅畑の隅などに植えている家もあり、その精神は、私の地方で朴の木を必ず屋敷や畑に植えるのと似ている。朴の木が家にあるということで主婦は安心するし嬉しくもなるのだ。
ダンチクは1本伐れば葉が10枚ぐらい収穫できる。あせ寿司1本に大体5枚の葉を使うので、ダンチク1本で2本のあせ寿司が作れる。あせ寿司100本作ろうと思うとダンチクを50本伐らなければならない。結構大変な仕事になる。伐ってきて放置するとすぐしおれるので、水に浸けておいたり、葉を切り取ってから冷蔵庫に入れておく。
△茎が中空になっている。段竹の名の通り、竹に似ている。しかし、このたけのこを採って食べたりはしないという。
*写真/2019年10月 和歌山県印南町にて