僕が名付け親になっている青年が訪ねて来た。心も身体も大きくなるようにと願を込めて「大介」と名づけた。現在二十歳の大介は大学でアメリカンフットボールをやっていると言う。5歳の時以来、一度も会っていないのでその成長振りには驚かされた。名は体をあらわす・・・・まこと見事な青年に成長した。訳あって父親と別れたが、その後の世話をしてくれる人との出会いが彼ら母子に良い影響を与えたものと思う。それにしても他人の子の成長は早いもので、あらためて自分の歳を思い知らされる。
死の際で食べたいものを訊かれたら、妹は「とんかつ」と応えるそうだ。兄貴は? と訊くので「豚肉の生姜焼き」と応えた。どっちも手近にあるものでお互いホッとした。あちこち探しに奔走するのは厄介な事だし、なんといっても急いで間に合わせなければならないから・・・。妻は「黄な粉菓子」だけは絶対いやだ! と言う。そのくせ黄な粉のボタモチは好物なのだ。僕にとって「豚肉の生姜焼き」は祖母の味である。母の後祖母が僕の面倒をみてくれた。僕のために隣町まで行って肉を買ってくる。僕だけが甘やかされて育った。〈婆ちゃん育ちは三文安〉・・・まさにその通りなのである。