降った雨を返せとばかり炎帝が照りつける。照り付けられて紫陽花の葉はぐったり暑気中り。ノラの親子たちは植え込みの根元で涼み、詩人はぼんやりカルピスをかき回している。突如、電話が鳴って「いま蒲焼を食べてまぁーす」と友人の声。怒りと食欲は次元が違うとでもいうのか、それともこの暑さで何もかも蒸発してしまったか、昨日のあの愚痴は蒲焼とともに腹に落ちていったようす。
深夜放送から流れ来るカーペンターズの「イエスタディ・ワンス・モア」・・・・・。1970年代に大ヒットした曲。僕は30歳の恋多き青年だった。今こうして曲を聴いていると、当時の人の顔や情景がよみがえってくる。出会った人はみんないい人、行った所はどこも美しい場所だった。ポップミュージックには珍しい彼らの切ない歌声は、アメリカの古き良き時代への郷愁だろうか。それとも遥か彼方に過ぎていった青春の日々への哀惜だろうか。 二晩泊まって、妹は東京に戻っていった。一陣のつむじ風のようであった。