今日は妻の母親の命日。肝臓ガンで亡くなった。気の強い女性で何度も僕とは衝突した。その度に畳をむしっては悔しがった。随分昔の事になるが、僕らの新婚旅行に付いて行くと言いだした。木曽路・城崎温泉・京都を車で巡る三泊四日の旅行。邪魔しないから後部に乗せてくれと言う。この旅行は特別のものだからと断っても、頑として引かない。言い出したらテコでも動かないのだ。「死んだら化けて出る」と脅かされ仕方なく同乗させることになった。一日目は妻籠に泊まる。家族ということで、旅館の方は一つの部屋に蒲団を三つ並べてくれた。彼女はそれを横目で見ながら「わたしゃ寝つきがいいから安心しな」・・・・ などと、この期に及んで妙な気をつかうのだ。 次の朝木曽を発つとき銘酒『七笑い』を一本買って彼女に預けた。ベンツの広い後部座席で一升瓶を抱えご満悦。城崎に着く頃はもうすっかり酔っ払って大いびきであった。木曽の山の中で道に迷ったりもして散々な旅行だったが、今となってはとても懐かしい。以来、一度も化けて出たことはないので、彼女もきっと満足しているに違いない。
遠き日は波音ばかり白むくげ