例の包丁研ぎ屋さんがポポーの実を持ってきてくれた。
媚薬のようなふしぎな匂いが部屋中に充ちて
なんだか落ち着かなくなってきた。
古くなれば簡単に捨ててしまう今の時代だからこそ
研ぎ直して再生させることに歓びを覚えると
日焼けの顔が屈託なく笑う。
このごろはT市にまで出かけて行って
そこの古い通りで開業していると言う。
「包丁研ぎと蔵の街」・・・・・ぴったりじゃないかと賛辞すると
少年のようにうれしがった。
亦、彼は『野草を食べる会』の主宰者でもあり
辺りに生えている雑草を片っぱしから食べてしまう。
我が家の隅に生えていた気味の悪いキノコを見つけたときは
小躍りしてよろこんだ。
食べられないへぼキノコと思い、目もくれなかったが
エノキダケの天然原種でとても旨いものだと言う。
紙袋いっぱいに採ってニコニコしているので
猫たちのおしっこのことは黙っていた。
錆鮎の供養の骨湯にて候