当館の学芸員さんが、自宅の桐の花を大きな枝ごと届けてくれた。甘く深淵な芳香につつまれていると、遥か万葉の世界にたゆたうような気分になってくる。 紫色を匂いで表現するなら、まさにこの幽玄な香りになるだろうと思う。 さっそく玄関先に活ける。何処からやってくるのか、次の日は10匹ほどの蜜蜂がかわるがわる花粉に集まってくる。いったいどうやってここを見つけるのか・・・・僅か10ミリほどの蜜蜂のその嗅覚に驚きです。
近くの農婦が、庭の隅へ白山吹を植えてくれた。花はどんな花でもそれぞれに美しく、こころ癒してくれるが、節操も無くやたら庭に咲かせるのは好まない。花はそれぞれ相応しい場所で咲くのが一番いい。人間の勝手な趣味で とんでもない場所に植えられ、きまり悪そうに咲いている花を見るのは憐れである。田畑の畦一面にパッチワークのように咲いている桜草・・・・やめて! そこは蓮華草とタンポポの咲く所。
山吹の垣根の奥の通夜灯かり
栃木県北N市のアジア学院を訪問した。アジア・アフリカ地区から農業指導者を目指しての研修生が約40名ほど就学している。期間はそれぞれ9ヶ月。有機栽培による自給自足の食糧生産を目指している。帰国後は、実践的農業指導者として彼らの活躍は期待されている。彼らが作ってくれた食事を戴きながら楽しく懇談した。ぼくの隣りはベビチャ・マングスバンと言う名の女性で、インドからやって来ている。額に例の印がないので尋ねてみると地方によって付けるところと付けないところがあると言う。更に、付けているのは既婚者が多いとも教えてくれた。母国では、女性の権利擁護と農村部での家計向上に活動している賢明な女性である。美味しい肉じゃがを戴きながら、アジア・アフリカの地域にとても熱いものを感じた。
U市内の小さな「珈琲豆と器の店」に立ち寄った。妻が品定めしている間、店の方がコーヒーを淹れてくれた。パプアニューギニア産の豆だと言う。癖がなくマイルドで、意外に美味しいのに驚いた・・・・。しかしちょっと待てよ、意外にというからには、ぼくはパプアニューギニアのことに精通していなければならない。パプアニューギニアの現実と対比して〈意外に〉と言えるのであって、何も知らないで〈意外に〉と言うのは大変問題である。かの国に対して無礼である。(意外に頭良かったのね)・・・なにげなく吐いてしまうが、 賛辞のつもりの言葉にも、迂闊に扱うと侮辱にもなりかねない。言葉は慎重に、慎重に・・・・。一杯のコーヒーを戴きながら冷静になっている。
マンガを読めと、とある女性にすすめられてにこにこしていたら、十冊ほど持ってきてくれた。頭が悪くなりそうな気がしてぼくはマンガを読まない。殊にいい大人が、電車の中で独り笑いしている顔はみっともない姿で、日本男子として軽蔑に値するものである。しかし女性からすすめられると断れない性分。そのうえ主人公があなたに似ていると言われれば、ちょっとだけでも読んでみようかと考えている・・・・・誰にも見られないところでこっそり・・・・。