今宵は十五夜さん。
ススキに添えて団子と里芋をお供えした。
ほんとうはどちらか一種でよいのだが
お月さんをもっと喜ばせてあげようと沢山供えた。
この頃はお月さんまでもが
異常で不安定な気象に心痛めているようだ。
煌々と鏡のように晴れやかであった、かつてのお顔が
憂いに翳っている。
ご自分の所為などではないのに
深く悲しんでおられる。
月は自ら輝くことはできない。
愛さんさん----------
与えられる光を享受することで
美しいその姿を夜空に現わすことができる。
お月さんはそのことを充分に自覚しているから
その恩返しとして
ひとの歩く夜道を明るく照らしてくれている。
お蔭でひとは躓いたり道に迷うこともなく
安心して峠を越えることができる。
雨の合間をぬって子供らが〈ぼーじぼ〉を叩いている。
軒明りの下、
わら筒(穂打棒)で地面を打ち鳴らし
五穀豊穣を祈願する昔からの風習。
わら筒の芯にイモガラを入れると音がよく響き
この日ばかりは、作ってくれた爺様を誇らしく思ったりもした。
無月なれども月の在処の幽なる
猫たちの移住大作戦がほぼ完了した。
屋敷に残ったものたちの名をあげると
一番の暴れん坊ポール
(父親に追い出されたが一年後逞しくなって戻ってきた)
時々ポールといがみ合っている弟チーコ
(小柄なくせになかなか気が強い)
美形母娘のミカンとトト
(母親は少々弱視気味 じっと見つめてくる瞳に不憫さを覚える)
唯一、足元に来てじゃれる甘えん坊のクロ
(黒豹のように精悍な姿をしている 赤い首輪を付けてやる)
とても小さな耳をしたおどけ顔のミミ
(他の猫たちへよく面倒をみている姉さんタイプ)
世間の事情がよく判っていないジージ
(だが雀捕りの名人 子どもだと思って雀は油断している)
一番小さく のらくろにそっくりのナツメ
(はじめて見つけたのがナツメの樹下で、最もチャーミング)
以上、八匹になる。
これならぼくにでも名前と顔が一致できる。
つぎにやることは避妊手術である。
可哀想とも思うが、勢力争いなどでお互い傷つけ合わずに
おだやかに暮らしていくためには
この数をキープしなければならない。
放っておくと半年後にはまた殖えてしまい
堂々巡りになってしまう。 急がなければ・・・・・
その点、獣医が近所に住んでいるというのはとても便利だ。
きのう、,獣医が自分で釣った鮎を
その奥さんが瑞々しいナスを沢山届けて呉れた。
こんなことは初めてである。
そら耳か風か遙かにつくつくし
今日は、「少年の主張・塩谷郡大会」に出席した。
郡内の中学校を代表して、夫々8名がスピーチする。
家族の病気や死、友人との諍い、スポーツなどの体験から
感じたことや学んだことを5分間で発表する。
どの子も皆、素晴らしいスピーチであった。
テーマも内容も話す態度も立派で、練習のあとがよく窺がえる。
とくに、8名のうち7名が女生徒ということには
日本の近未来を垣間見るような思いもした。
彼らのスピーチを聞きながら
ふと、自分自身を振り返ったりもしていた。
自分が中学生のときはどうだったか・・・・・・
どんなことに感動し、なにを考えていたか・・・・・
お恥ずかしいかぎりである。
なんの考えもなく只ぷらぷら遊びほうけていただけである。
スピーチの経験などさらさら無く
その延長で、青年時代は対人恐怖症と赤面症に悩んだ。
ところが35歳のとき、
ある重大な出来事(ぼくにとっては)をむかえ
「江川ひろしの話し方教室」に入学することになった。
3ヶ月間の初心者コースであるが
新宿まで通いながら話の上手になる秘訣を期待した。
免許皆伝を夢見て、一度も怠けずに通いつづけた。
その甲斐あって、スピーチ大会で優勝し
中級コースの授業料免除という特待生に選ばれた。
しかし結局のところは「習うより慣れよ」ということで
魔法の秘訣などなにも無いことを知らされた。
それでもそのときの経験が
その後のぼくに大きな支えとなったのは確かである。
なつめ熟れ館主ひとりの美術館
ゲリラ豪雨があちこちで暴れているが
大気は澄みわたり、いよいよ秋めいてきた。
郊外を車ではしると、碧空に「ぶどう」の幟がはためき
稲田を黄金色の風が吹き渡っている。
日が落ちると、あちこちの闇で虫たちの弦楽四重奏。
台所では栗がことこと茹だっている。
姫(シロ)の様子がおかしい。
ブラシをかけるとき、お尻の辺りをひどく痛がる。
またロクサーヌにやられたかと、調べてみるが傷はどこにもない。
でも痛がって鳴く。
そこで早速、親切な獣医さんのお出ましである。
洗濯用の網に姫を包むと、おとなしくなって治療がしやすい。
あちこち触診(問診は無理)の末、腰痛であることが判明。
狭いところに潜りこんだか
高い所から飛び降りたときに傷めたらしい。
当人は自信があるつもりでも
人間に換算すると、もはや60歳になる。
昔のようには体が利かないことに気づいていないのだ。
それにしても、あるじと同じ腰痛病みとは皮肉なもので
まっこと猫というやつは不思議な生きもの。
痛み止めの注射を二本打って ハイ、3000円。
夢ごこちたり虫の世へ身をあづけ
農産物直売所にて初ものの栗を買う。
生栗はたちまち虫がわくので、早速茹でていただく。
熱々の皮を剥きながら
ふと、ロンドン名物の焼栗が想い出された。
もう30年も昔のこと。
計画ではジュネーブからバルセロナに向かう筈だったが
空港の管制塔がストライキに入り
急遽、ロンドンに廻されてしまった。
(フラメンコが目的でこのツアーに参加したのに・・・)
曇り空の下、丸一日自由行動。
往来で買った焼栗がコートのポケットで温もり
ふうふう食べながら散策するぼくに
暗がりの中から一人の紳士が近づいてきた。
確か、ヒルトンホテルの角だったように覚えている。
黒のソフト帽に黒のスーツ・・・・・
まさに映画に出てくる英国紳士である。
ぼくの前にひたと立ち止まり、ギーミーサーペイ
英語のダメなぼくは、ワンスモア と訊きかえす。
紳士はゆっくり ギブ・ミー・サム・ペニイ と発音した。
総てを理解したぼくは、
断られた際の紳士の様子に興味がわいて
ノー! と意地悪をしてみた。
そのまま何事もなかったように紳士はぼくの前から立ち去っていった。
もし、誰かがその場を見ていたら
貧相な東洋人のぼくの方が
お金をせびっているように見えたかもしれない。
カツカツと靴音が闇に響き
11月も半ばの寒い季節であった。
ままごとに不倫の兆し鳳仙花