死ぬまで健康でいるためには、どんなことに気をつけたらいいのか。

整体師の南雅子さんは「介護が必要になる原因の多くが、足腰の衰えに関係している。
死ぬまで歩ける体を作るためには、無理に筋トレをしたりたくさん歩いたりするよりも、
正しい姿勢を作ることが大切だ。

『かかとトントン体操』を続けて下半身を整えることを意識してほしい」という――。(第1回)

※本稿は、南雅子『死ぬまであるくにはかかとをトントン鍛えなさい たった10秒!すわってできる自力整体
(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

かかと
写真=iStock.com/narith_2527
※写真はイメージです


☆かかとを動かすことで、足をほぐして骨を鍛えられる

「かかとトントン体操」は、すわったまま足底を床につけ、
かかとで「トントン」と床を音をならして、たたくという動きの体操です。

足底の筋肉やかかとから全身の骨を鍛え、固まった足の甲をほぐして、
脚の歪みを修正します。

かかとトントン体操で下半身が整うと、上半身にも連動して、
一生歩ける、転びにくいからだになっていきます。

すわってできるので、外出時は車いすをよく利用しているという人も、
「もう自力では歩けない」とあきらめる前に、一度試してみてはいかがでしょうか。

もうひとつおすすめしたいのが、
人工股関節置換術などの手術前の準備や、手術後のリハビリとしての活用法です。
術後のなおりが早くなりますし、病室でも行えます。

かんたんな体操ではありますが、やってみると、からだがゆっくりと整い、
筋肉が引き締まり、体力が少しずつ回復していくのを感じるでしょう。

最近、テレビや雑誌で、60代、70代、80代に
フォーカスした「豊かで有意義なライフスタイル」特集をよく見かけます。

ひと昔前は定年を迎えたり、子育てがひと段落したら、
「あとはのんびりゆっくりすごしたい」
という将来像をもっている人が大半でした。

ですが100歳まで生きることが珍しくなくなったいまでは、
趣味に打ち込んだり、精力的に仕事を続けることで、
人生を余すことなく楽しみたいと、イメージする人が増えたのでしょう。

しかし、いくら理想的な老後のプランを練っても、
病気になったり、寝たきり生活になってしまっては、元も子もありません。



☆介護の主な原因の3割が「骨折・衰弱・関節疾患」

2019年の調査では、日本人の平均寿命は、男性が81.41歳、女性が87.45歳でした。
対して健康寿命は、男性72.68歳、女性75.38歳です。
平均寿命と比べると、約10年の差があります。

健康寿命とは「健康上のトラブルがなく、日常生活に支障なく暮らせる期間」のこと。
つまり、寿命を迎えるまでの最後の10年間は、
人の手や高度な医療の力を借りないと生活できない人が大勢いるのです。

一体どうしたら死ぬまで、自力で立ったり歩いたりしながら、自分らしい毎日を送れるのでしょうか。
そのヒントが「介護が必要になった主な原因」の統計にあります。

【図表1】介護が必要になった主な原因
介護が必要になった主な原因[出所=『死ぬまであるくにはかかとをトントン鍛えなさい』(SBクリエイティブ)]

このデータによると「骨折・転倒、高齢による衰弱、関節疾患」が原因の35パーセント以上を占めています。
つまり、「関節の痛みがなく、丈夫で、転ばないからだづくり」こそが、
寝たきりを回避し、健康寿命を延ばすポイントだといえるのです。

死ぬまで自力で歩き、アクティブに生活しつづけるためには
「関節の痛みがなく、丈夫で転ばないからだづくり」が大切とお話ししました。

しかし近年、こうしたすこやかなからだづくりをおびやかす大変なできごとがありました。
そう、なにを隠そうコロナ禍です。



☆コロナ禍以降の運動不足は深刻

新型コロナウイルスによって、わたしたちの生活は激変しました。
外出自粛要請が出され、家でひたすらじっとしていた・・・
という人も多いのではないでしょうか。

その結果、コロナ禍以降「足がもつれてうまく歩けなくなった」、
「よく立ちくらみを感じるようになった」という方が、
わたしのサロンにも、たくさんいらっしゃるようになりました。

外出や運動の機会が減り、からだの活動量が減ると、
首や背中が正しく伸びたバランスのよい姿勢が保てなくなります。

なぜなら筋肉が衰えて、重い頭(頭の重さは5~6キロもあります)を支えきれなくなると、
頭の位置が前方に下がっていき、次第に首や肩も前に出て、猫背になり、
からだ全体が前のめりに崩れていくからです。

バランスの悪い姿勢で歩くと、上半身の重みがつねに前方にかかり、
つまずいたり、転んだりしやすくなります。

また、足底には、脳に正しい姿勢を伝えるためのセンサー(神経伝達物質)があります。
足底の筋膜きんまくが十分に発達していないと、脳への伝達がうまくいかず、
立ち上がった際に、頭のポジションをどこに置いたらいいか、からだが一瞬混乱してしまいます。

すると、頭がグラグラと不安定になり、立ちくらみが起こるのです。


☆無理に足腰を鍛える必要はない

つまずいて転んでしまい、あわや骨折・・・なんてことが起きれば、
寝たきり生活まっしぐらです。

また、ベッドから立ち上がろうとしたときに、
フラつき、バランスを崩して、転倒、骨折という事態も考えられます。

骨折には至らなくても、「いままで普通に歩けていたのに、転びやすくなった」、
「立ち上がることさえ、ままならなくなった」となると、
弱った自分にガッカリしてしまい、気落ちしてしまう人もいます。

ですが、ここで読者のみなさんに言いたいことは、こうした事態を避けるために、
ハードなトレーニングはいらない、ということ。

必要なのは、頭を支えられる正しい姿勢のキープ力。
それには、かんたんな体操や、生活習慣の見直しで十分です。
いっしょに転ばない、フラつかないからだをつくりましょう。

ずっと歩ける丈夫なからだをつくると聞くと、
「よ~し! 足腰を鍛えよう!」と、太ももやふくらはぎの筋肉をつけようとして、
やみくもに下半身のトレーニングをはじめる人がいますが、それは大間違い! 

立っているとき、歩いているときに、正しい姿勢をキープできることこそが、
いつまでも健康で、歩き続けるコツなのです。


☆かかとを安定させれば、からだ全体が安定する

かかとは、わたしたちのからだを支えている土台です。
この土台が歪んでしまうと、骨や関節が次第にズレて、全身のバランスは、みるみる崩れます。
すると、からだを支えるために、つねに余計な筋力を使うことになり、
立っているだけで、ドッと疲れてしまうのです。

ところで、足(片足)には何個の骨があるかご存知ですか? 正解は33個。

【図表2】外側からみた足の骨(上)/内側からみた足の骨(下)
外側からみた足の骨(上)/内側からみた足の骨(下)[出所=『死ぬまであるくにはかかとをトントン鍛えなさい』(SBクリエイティブ)]

意外と多いですよね。
足の骨は、それぞれ関節でつながっています。

足の甲側にも、骨をつなぐ関節があって、本来は自由に動かすことができます。
しかし、現代人の足は、ギュッと硬くまとまってしまい、
バラバラに動かせなくなっていることが多いのです。

とくに足の中心にある中足骨が固まっています。
昔の人は素足で生活していたため、長い距離を無理なく歩くことができました。

しかし靴という文明が生まれ、本来は動くはずの関節を固定したまま歩くようになり、
体幹が衰えて、長時間歩けなくなってしまったのです。

逆に言えば、かかとという土台を安定させつつ、足の関節をやわらかくすることで、
本来の丈夫な足腰をとり戻すことができ、脚力アップも期待できるのです!


☆「足底のアーチ」が崩れると痛みが出るようになる

アーチは、体重を分散させることで、疲れないようにしながらからだを支えたり、
歩いたときの振動をうまく受け止めたり、体重の移動をスムーズにする働きをしています。

アーチのかたちが崩れて、足底がベタッとすると、
脚がだるくなったり、ふらついてスムーズに歩けなくなります。

さらに、アーチの崩れが進んで扁平足へんぺいそく外反母趾がいはんぼしに発展すると、
ただ靴を履いているだけで痛くなることもあります。

そうなると、歩くこと自体が「つらい、いやだ、しんどい」と感じてしまい、
楽しい老後は夢のまた夢になります。

足底のアーチを保つためには、かかとが正しい位置にあり、
足の関節がしなやかに動かせることが重要です。

また、骨や関節だけでなく、足底の筋肉や筋膜を強化することもポイントになります。
アーチが崩れている人は、痛みが出る前に足底をしっかり整えなければなりません。

かんたんに転ばないような強い足底をつくるため、
今度は足底の筋膜にも注目していただきたいと思います。

【図表5】足底の筋膜図(右足)
足底の筋膜図(右足)[出所=『死ぬまであるくにはかかとをトントン鍛えなさい』(SBクリエイティブ)]

まず、足指を曲げてグーの状態にしてみてください。
足の指のつけ根に、横に線が入りますよね。

次に、バレリーナのようにつま先を前にツンととがらせてみてください。
今度はまん中あたりに、縦に線が入るはずです。

この縦と横の線の正体は、からだが前後、左右に揺れたときに、
転ばないようバランスをとって支えてくれている筋膜の線です。


☆筋膜が機能していないと、転倒のリスクが高まる

横の線の筋膜は上半身が前後にグラついて、バランスを崩しそうになったときに
足底を調整して、転倒を防ぎます。

一方、縦の線の筋膜は、かかとと足指をつないでいて、
左右にバランスを崩しそうになったときに機能します。

南雅子『死ぬまであるくにはかかとをトントン鍛えなさい たった10秒!すわってできる自力整体』(SBクリエイティブ)
南雅子『死ぬまであるくにはかかとをトントン鍛えなさい たった10秒!すわってできる自力整体』(SBクリエイティブ)

横の線の筋膜がうまく働いていないと、重心が前やうしろにブレたときに、
前に向かって転びやすくなり、縦の線の筋膜がうまく機能していないと、
からだが横にブレたときにバランスがとれなくなり、
足首をひねってねんざする原因になります。

人の頭は意外と重いので、重心が前後または左右にブレると
頭に引っ張られてバランスが崩れ、転倒しそうになります。

ですが、足の甲の関節の動きがよいと、足底の筋膜の感覚も鋭くなるため、
万が一転倒しそうになったとき、からだを支えようと瞬時に反応してふんばることができます。

逆に筋膜が弱って使えていない状態では、
足底の感覚センサーが鈍り、ふらついて転倒の原因になってしまうのです。

また、足の関節が硬い人は、そのままにしておくといずれ、
すわって足の裏を見ることも、爪を自分で切ることも難しくなってしまいます。

日常生活を快適にすごすためにも、足底を鍛えたいものです。


☆1日10秒でいいから、かかとを調整してほしい

寝たきりの主な原因は、骨折・転倒、高齢による衰弱、関節疾患でした。
そして、死ぬまでずっと若々しく、元気に楽しくすごすために必要なのは、
転ばない、痛みなく歩ける、健康的なからだです。

そのためには、土台である足を次のように整える必要があります。

☆死ぬまで歩くための理想的な足

①かかとの歪みがなく、足の内くるぶしと外くるぶしが同じ高さ

②足の骨をつなぐたくさんの関節同士が固まっておらず、よく動く

③足底の中央にアーチがある。かかとは安定し足底の筋肉が鍛えられている

④縦、横の筋膜がそれぞれしっかり発達している

【図表6】足の筋肉や腱
足の筋肉や腱[出所=『死ぬまであるくにはかかとをトントン鍛えなさい』(SBクリエイティブ)]

また、図表6のように足全体を横から見ると、
骨や筋肉のほかにも、伸び縮みをする靭帯や、関節をつなぐ腱、
包帯のようにぐるっと巻かれている支帯などが、正しいアーチや足のかたちをつくっています。

このような足をとり巻くさまざまな部位を鍛えることで、よい足底になります。

すると、自然にひざから上も関節が正しい位置におさまって、
頭の位置が安定し、転びづらくなります。

脚全体を整えるためのアプローチ先としてうってつけなのが、
足でいちばん重い骨である「かかと」です。

1日10秒でも、かかとを調整することで、
足底全体、そして下半身から全身にいい影響を与えられるのです。・・ 》

注)記事の原文に、あえて改行など多くした。