永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(487)

2009年09月01日 | Weblog
 09.9/1   487回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(41)

 世間は葵祭りで、車の音が騒がしく行き来していますが、柏木はまるで他所事のように聞いて、身から生じた侘しさに日を送りかねています。

 妻の女二宮も、柏木のこうしたご不興そうなご様子もお分かりになりますので、どんな事情かはご存知なくても、妻の身としては恥ずかしくも腹立たしく、こちらも思い悩んでいらっしゃる。女房たちは祭り見物に出かけてしまって、ひっそりとしたお部屋で、手ぐさみに、

「筝の事なつかしく弾きまさぐりておはするけはひも、さすがにあてになまめかしけれど、おなじくは今ひと際及ばざりける宿世よ、と、なほ覚ゆ」
――(女二宮が)筝の琴をなつかしく弾きすさんでいらっしゃるご様子は、なるほど上品で奥ゆかしくはあるけれど、同じことならもう一段美しい方を頂きたかったのに、かなわぬ宿縁よ、と、柏木はなおも怨みがましく思うのでした――

「『もろかづら落葉を何にひろひけむ名は睦まじきかざしなれども』と書きすさび居たる、いとなめげなるしりうごとなりかし」
――「もろかづら(桂と葵を合わせて祭りのかざしとした)というように、女二宮と女三宮は親しい姉妹ながら、どうして自分は姉宮(落葉)の方を妻としたのだろう」と、手すさびに書き散らしているのも、なんと失礼な蔭口というものか――

 源氏は、たまに来られた女三宮のところから、すぐには二条院へお帰りになることもできず、困っていらっしゃると、

「絶え入り給ひぬとて、人参りたれば、さらに何事も思しわかれず、御心もくれて渡り給ふ。道のほどの心もとなきに、げにかの院は、ほとりの大路まで人たち騒ぎたり。殿の内泣きののしるけはひ、いとまがまがし」
――(紫の上が)ただ今息が絶えておしまいになりました、と、侍者が参上したので、源氏は分別もつきかね、目の前が真っ暗になったまま紫の上の許にいらっしゃる。途中も気が気ではなく、二条院では、付近の大通りまで人々が立ち騒いでいます。御殿の内でも泣き騒ぐ様子が不吉に思われます――

◆なめげなるしりうごと=なめげ(無礼だ、失礼だ)しりうごと(後う言=蔭口)

◆ののしる=大声で言い騒ぐ

ではまた。