永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(508)

2009年09月22日 | Weblog
 09.9/22   508回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(62)

 つづいて朱雀院のお心の内は、

「その後なほり難くものし給ふらむは、その頃ほひ便なきことや出で来たりけむ、自ら知り給ふ事ならねど、よからぬ御後見どもの心にて、如何なる事にかあらむ、」
――その後も相変わらずだというのは、その頃、女三宮に何か不都合なことでもおきたのであろうか。宮ご自身が知らないことで、良くない侍女たちの計画で、何事かが生じたのだろうか――

 と、朱雀院はご心配になるのでした。出家されて世間を振り棄てられた御身でありながら、矢張り親子の道だけは別のようで、御心配のあまり宮に細々とお手紙をお書きになります。丁度源氏が六条院にいらっしゃる時でしたので、源氏がそのお手紙をご覧になりますと、

「その事となくて、しばしばも聞こえぬ程に、おぼつかなくてのみ、年月の過ぐるなむあはれなりける。(……)世の中さびしく思はずなることありとも、忍び過し給へ。うらめしげなる気色など、おぼろげにて、見知り顔にほのめかす、いと品おくれたるわざになむ」
――(お手紙には)これという用事もなくて、度々お便りをすることもない間に、ただ気にかかるままで、年月が過ぎていくのは寂しいことでした。(ご病気のことを聞いて以来、念仏読経の折にも心配していますが、どんな具合ですか)源氏との間に、淋しく気に入らぬことがありましても、我慢してお暮しなさい。恨めしげな素振りなど、一寸したことで見知ったようなご態度は品の悪いことですからね――

 と、教え諭すものでした。源氏は、

「いといとほしく心苦しく、かかる内うちのあさましきをば、聞こえ召すべきにはあらで、わがおこたりに本意なくのみ聞き思すらむことを、とばかり思しつづけて」
――朱雀院のお気持ちを思いますと、とてもお気の毒でお労しく、このような内密の不祥事をお聞きになる訳もないでしょうから、みな私の不実を困った事と思われるであろうと、しばらく思いめぐらされて――

 源氏は、女三宮に

「この御返りをばいかが聞こえ給ふ」
――このご返事をあなたはどうお書きになりますか――

◆写真:朱雀院からのお手紙。源氏と女三宮。WAKOGENJIより

ではまた。