永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(503)

2009年09月17日 | Weblog
 09.9/17   503回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(57)

柏木の心は、

「年頃、まめごとにも、あだごとにも、召しまつはし参りなれつるものを、人よりはこまかに思しとどめたる御気色の、あはれになつかしきを、あさましくおほけなきものに、心置かれ奉りては、いかでかは目をも見合わせ奉らむ」
――長年、自分は源氏から公事でも、遊び事でも目をかけていただき、こちらからも親しみ申してきましたものを、人よりは懇ろにお心にかけてくださったご様子が、しみじみとなつかしい思いでありましたのに、今後は何とあきれた、大それた奴だと睨まれますようでは、いったいどのように顔向けができましょう――

「さりとてかき絶え、ほのめき参らざらむも人目あやしく、かの御心にも思し合わせむ事のいみじさ、など安からず思ふに、心地もいとなやましくて、内裏へも参らず」
――そうかと言って、全く六条院へ顔を出さないのも、人から怪しまれ、源氏も内々思い合わされて確かと思われても大変だ。などと心安からず、気分も悪くなって、とうとう宮中にも参内されません――

 柏木は、大した重罪に処せられる類のことではないと思うものの、すっかり将来が台無しになった気がしますので、一方では、だから思った通りだと、自分の心を恨めしくてならないのでした。

 それにしても、と柏木は思います。

「いでや、静やかに心にくきけはひ見え給はぬわたりぞや、先づはかの御簾の間も、さるべき事かは、軽々しと、大将の思ひ給へる気色見えきかし、など今ぞ思ひ合わする。
しひてこの事を思ひさまさむと思ふ方にて、あながちに難つけ奉らまほしきにやあらむ」
――そういえば、宮の周りは落ち着いて奥ゆかしい趣というところが無い。先日のように御簾の間からお姿をお見せになった女三宮の軽々しさに、夕霧がしきりにその軽率さを言っていたものだ。などと今になって思い当たるのでした。強いてご自分の恋心を鎮めようとして、無理に女三宮の欠点をお探ししたい訳なのでしょうか――

ではまた。