永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(488)

2009年09月02日 | Weblog
 09.9/2   488回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(42)

「日頃はいささか隙見え給へるを、にはかになむかくおはします」
――ここ数日は少し快方にむかっておられましたのに、急にこういうことになられました――

と、側の侍女たちは、自分たちも遅れず紫の上の後を追って、ご一緒に死にたいと泣き惑うことといったら、大変です。

 源氏は、

「さりとも物怪のするにこそあらめ。いとかくひたぶるにな騒ぎそ」
――それはきっと、物怪の仕業であろう。そのようにむやみに騒ぐな――

 と、しずめなさって、ますます厳めしい祈願を前以上におさせになります。立派な験者どもを沢山集めて蘇生の願をお立てになります。

「『限りある御命にてこの世つき給ひぬとも、ただ今しばしのどめ給へ。不動尊の御本の誓ひあり。その日数をだにかけとどめ奉り給へ』と、頭よりまことに黒煙を立てて、いみじき心を起こして加持し奉る」
――(修験者たちは)「寿命でお亡くなりになったとしましても、もうしばらく延ばしてください。不動尊の御本の誓いがありましょう。(定命のつきた者にも六か月間の延命を許すのが不動尊の本誓であるという)せめてその六か月間でも、この世におとどめ申してください」と、本当に頭から黒煙を立てて、非常の大願を起こして加持してさしあげます――

 源氏も、

「ただ今一度目を見合わせ給へ、いとあへなく限りなりつらむ程をだに、え見ずなりにける事の、悔しく悲しを」
――せめてもう一度、目をお開きください。実にあっけなく臨終の時さえ見ずに終わったことが残念で、悲しいのに――

 と、もうすっかりうろたえて、今にも後を追われそうなご様子に、お見上げする人々の何とも言えない気持ちは、想像にあまりあるというものです。

ではまた。