永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(495)

2009年09月09日 | Weblog
09.9/9   495回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(49)

 女三宮のただならぬ有様をお聞きになって、源氏は六条院に参らねばと思っていらっしゃる。紫の上も大分正気になられ、源氏にも余裕が出てきましたようで、

「かくて見奉るこそ夢の心地すれ。いみじく、わが身さへ限りと覚ゆる折々のありしはや」
――こんなに良くなられた所を拝見できて夢のようです。あの頃は随分お具合が悪くて、私までが死ぬかと思われる時が度々ありましたよ――

 と、源氏はご自分でも感慨無量の面もちでおっしゃる。紫の上の歌、

「消えとまるほどやは経べきたまさかに蓮のつゆのかかるばかりを」
――蓮の露がほんの少し消え残っている時間ほども私は生きていられないでしょう――
 
源氏の歌、

「契りおかむこの世ならでもはちす葉に玉ゐる露のこころへだつな」
――蓮の葉に露が玉と置くように、この世だけでなくあの世でも一緒だと忘れないように約束しよう――

 さて、源氏にとってのお出かけ先はもの憂いのですが、帝や朱雀院の聞こえもありますので、ようよう六条院へお渡りになります。女三宮は、

「御心の鬼に、見え奉らむもはづかしう、つつましくおぼすに、……おとなびたる人召して、御心地のさまなど問ひ給ふ。例のさまならぬ御心地になむ、とわづらひ給ふ御有様を聞こゆ」
――良心が咎めて、源氏にお逢いすることが恥ずかしく、遠慮されますので、……歳をとった女房を召して、宮の御容態をお聞きになりますと、女房は、普通のご病気ではなく御懐妊らしいですと、申し上げたようでございます――

源氏は首をかしげ、

「あやしく程へてめづらしき御事にも」
――今時分になって妙なこともあるものだ――

ではまた。