永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(507)

2009年09月21日 | Weblog
 09.9/21   507回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(61)

 源氏は朧月夜に尼のご衣装を差し上げるべく、紫の上からお指図をおさせになります。型通りの法服めいた衣裳では、味気ないとも思われますが、しかし矢張り法服らしさを残して仕立させます。それに尼として必要なお道具類も用意するよう、特別念を入れてお言いつけになります。

 こうして朱雀院五十の御賀も延び延びとなって秋(秋は7月~9月)になってしまいました。八月は夕霧の母葵の上の祥月で、奏楽所のお世話には不都合であり、九月は朱雀院の御母弘徽殿大后が亡くなられた月なので、源氏は、十月にこそと思っていましたが、

「姫宮いたくなやみ給へば、また延びぬ」
――肝心の女三宮が大そうお苦しみのご様子なので、また延びてしまわれた――

一方、

「衛門の督の御あづかりの宮なむ、その月には参り給ひける。……督の君も、そのついでにぞ、思ひおこして出で給ひける。なほなやましく例ならず、やまひづきてのみ過し給ふ」
――柏木がお世話をしておられる女二宮(落葉の宮)だけが、この月にお祝いにお出向きになりました。……柏木もこの御賀の機会に、やっと気を取り直してお出かけになりました。けれどもその後も気分がすぐれないままに、常のようにもなく、寝たり起きたりして日を過ごしていらっしゃる――

 女三宮は、その後も気が引けて、辛いとばかりお悩みのせいか、月が重なるにつれてお苦しそうですので、源氏も女三宮のお命の程もご心配で、ご祈祷などおさせになります。

 そのような折に、

「御山にも聞し召して、らうたく恋しと思ひ聞こえ給ふ。月頃かく外々にて、渡り給ふこともをさをさなきやうに、人の奏しければ、如何なるにかと御胸つぶれて、世の中も今さらにうらめしくおぼして、対の方のわづらひける頃は、なほそのあつかひにと聞し召してだに、なま安からざりしを、」
――御山の朱雀院も女三宮のご懐妊をお聞きになって、不憫にも恋しくもお思いになっておられますときに、源氏とはこの幾月も別居の状態で、宮の許にめったに行かれることもないように人が奏上しましたので、いったいどうしたことかと胸のつぶれる思いで、男女の仲の頼み難さを今更ながら恨めしく思われるのでした。あの紫の上が病気だった頃、看病のために宮と離れておられると聞かれてさえ、何となく不愉快であったのに…――

◆女二宮(落葉の宮)と女三宮は、共に朱雀院の姫宮。女三宮の御母はすでに故人なので、朱雀院は殊に不憫に思っています。

ではまた。