09.9/13 499回
三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(53)
ただ泣いておられる女三宮をお気の毒とお見上げしつつも、小侍従は、
「いづくにかは置かせ給ひてし。(……)入らせ給ひし程は、すこし程経侍りにしを、隠させ給ひつらむとなむ、思う給へし」
――どちらにお置きになったのでございますか。(あの時、人が参りましたので、秘密ありげにお側に居りましてはと、退りましたのに)源氏が入って来られますまでには時間がありましたのに、お隠しになられたものとばかり思っておりました――
「いさとよ。見し程に入り給ひしかば、ふともえ置きあへで差し挟みしを、忘れにけり」
――いいえあの…、私が見ているところに入って来られましたので、急に隠し切れずお布団の端に挟んだまま、忘れてしまったのです――
小侍従は、何とも申し上げようもありません。やはりあのお文を探してもどこにもありません。
「あないみじ。かの君もいといたくおぢ憚りて、気色にても漏り聞かせ給ふことあらばと、かしこまり聞こえ給ひしものを、程だに経ず、かかる事の出で参うで来るよ。(……)かくまで思う給へし御ことかは。誰が御為にも、いとほしく侍るべきこと」
――ああ、大変なこと。柏木もたいそう恐れ憚って、源氏が少しでも秘密を嗅ぎつけられたら大変だと、慎んでおられましたのに、早くもこんなことになりましたとは。(大体幼ないご性分で、あの柏木にお姿を見られたことから、言い寄って来られたのですが)
こんなことになろうとは思いませんでした。どなたの為にも困ったことですこと――
と、言葉も憚らず申し上げます。女三宮はお返事もなされず、ただひたすら泣くばかりでございます。
その上、食欲もなく、ほんの少しも召し上がらないご様子に、他の女房たちは、
「かくなやましくせさせ給ふを、見おき奉り給ひて、今はおこたりはて給ひにたる御あつかひに、心を入れ給へること」
――宮がこんなにも苦しそうにしていらっしゃるのを源氏は放ってお置きになって、もう全快なさったという紫の上のお世話に一生懸命とは――
源氏を恨んで言い合っております。
「おとどは、この文のなほ怪しく思さるれば、人見ぬ方にて、うち返しつつ見給ふ」
――源氏は、この手紙を怪しまれて、人の居ないところで繰り返しゆっくりとお調べになるのでした――
ではまた。
三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(53)
ただ泣いておられる女三宮をお気の毒とお見上げしつつも、小侍従は、
「いづくにかは置かせ給ひてし。(……)入らせ給ひし程は、すこし程経侍りにしを、隠させ給ひつらむとなむ、思う給へし」
――どちらにお置きになったのでございますか。(あの時、人が参りましたので、秘密ありげにお側に居りましてはと、退りましたのに)源氏が入って来られますまでには時間がありましたのに、お隠しになられたものとばかり思っておりました――
「いさとよ。見し程に入り給ひしかば、ふともえ置きあへで差し挟みしを、忘れにけり」
――いいえあの…、私が見ているところに入って来られましたので、急に隠し切れずお布団の端に挟んだまま、忘れてしまったのです――
小侍従は、何とも申し上げようもありません。やはりあのお文を探してもどこにもありません。
「あないみじ。かの君もいといたくおぢ憚りて、気色にても漏り聞かせ給ふことあらばと、かしこまり聞こえ給ひしものを、程だに経ず、かかる事の出で参うで来るよ。(……)かくまで思う給へし御ことかは。誰が御為にも、いとほしく侍るべきこと」
――ああ、大変なこと。柏木もたいそう恐れ憚って、源氏が少しでも秘密を嗅ぎつけられたら大変だと、慎んでおられましたのに、早くもこんなことになりましたとは。(大体幼ないご性分で、あの柏木にお姿を見られたことから、言い寄って来られたのですが)
こんなことになろうとは思いませんでした。どなたの為にも困ったことですこと――
と、言葉も憚らず申し上げます。女三宮はお返事もなされず、ただひたすら泣くばかりでございます。
その上、食欲もなく、ほんの少しも召し上がらないご様子に、他の女房たちは、
「かくなやましくせさせ給ふを、見おき奉り給ひて、今はおこたりはて給ひにたる御あつかひに、心を入れ給へること」
――宮がこんなにも苦しそうにしていらっしゃるのを源氏は放ってお置きになって、もう全快なさったという紫の上のお世話に一生懸命とは――
源氏を恨んで言い合っております。
「おとどは、この文のなほ怪しく思さるれば、人見ぬ方にて、うち返しつつ見給ふ」
――源氏は、この手紙を怪しまれて、人の居ないところで繰り返しゆっくりとお調べになるのでした――
ではまた。