永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(498)

2009年09月12日 | Weblog
 09.9/12   498回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(52)

 その文は、

「紙の香などいとえんに、ことさらめきたる書きざまなり。二重にこまごまと書きたるを見給ふに、紛るべき方なく、その人の手なりけりと見給ひつ」
――紙にたきしめた香の匂いが艶めいて、意味ありげな書きぶりです。紙を二枚にくどくどと書いてありますのをお読みになって、源氏は間違いなく柏木の筆跡であると確信なさったのでした――

 小侍従は源氏がお読みになっているお文の色が、昨日の柏木からのお手紙の色と同じなので、胸がどきどきと鳴るような心地がしております。それにしてもあのお手紙ではないだろうし、宮がきっとお隠しになった筈だと思いなおしてみたりしています。当の女三宮はまだお寝みになったまま。源氏は、

「あないはけな、かかるものを散らし給ひて、われならぬ人も見つけたらましかば、と思すも、心おとりして、さればよ、いと無下に心憎き所なき御有様を、うしろめたしとは見るかしと思す」
――ああ、子供だな。こんなものを落して。私でない他の人が見つけたならどうなるのだろう、と思いながら、女三宮に対してふと軽蔑の気持ちが生じて、だから言わぬことではない、まったく奥ゆかしいところがないと心配していたとおりだ――

 源氏が出て行かれました後で、小侍従が女三宮のお側に伺って、

「昨日の物は如何せさせ給ひてし。今朝、院のご覧じつる文の色こそ、似て侍りつれ」
――昨日のお手紙はどうなされましたか。今朝、源氏の院がご覧になっていらした紙の色が似ておりましたが――

 女三宮は、はっとして、大変なことをしてしまったと、涙を流していらっしゃる。

◆写真:柏木の手紙を読む源氏  wakogenjiより

ではまた。