永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(514)

2009年09月28日 | Weblog
 09.9/28   514回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(68)

 朱雀院ご自身が、万事簡略にとおっしゃっておられますので、源氏の六条院での催しもそれに添ってなさっております。源氏は、

「楽のかたの事は御心とどめて、いとかしこく知り整へ給へるを、さこそ思し棄てたるやうなれ、静かに聞し召しすまさむこと、今しもなむ心づかひせらるべき。かの大将ともろともに見入れて、舞の童の用意心ばは、よく加へたまへ」
――(朱雀院は諸芸に明るくていらっしゃる中でも)音楽については特にご熱心で、よく通暁していらっしゃいますので、世をお捨てになっていらっしゃるとはいっても、こういう折こそ静かにお聴きになると思えばこそ、十分に準備をしませんとね。夕霧と一緒によく世話をして、舞の童たちの態度や心得をよろしく頼みます――

 と、たいそう優しくお言い付けになられましたので、柏木はほっと安心しながらも心苦しく身のすくむような心地がして、一刻も早く院のお前を立ち去りたいと、そこをようやく滑り出てしまいました。

 試楽の日を、源氏は女方に見物し甲斐があるようにと配慮されました。童たちは、
髭黒右大臣の四男、夕霧の長男、次男、三男、蛍兵部卿の宮の子息たちで、立派に楽に合わせて舞う姿に、みな涙を流さんばかりに感激しておいでになります。正式ではないのでご馳走などは手軽に用意されておりましたが、酔いがまわるにつれ、主人側の源氏が、

「過ぐる齢にそへえは、酔ひ泣きとどめ難きわざなれ。衛門の督心とどめてほほゑまるる、いと心はづかしや。さりとも今しばしならむ。さかさまにゆかぬ年月よ。老いは、えのがれぬわざなり」
――だんだん歳をとるにつれて、酔えばすぐ涙のこぼれ出るのを抑えることのできないものだ。衛門の督(柏木)が、私のこんな有様をじっとご覧になって、ひとり微笑んでおいでなのが、甚だ恥ずかしい。しかし、その若さに奢っておられますのも今だけですよ。年月は逆さまに進みませんからね。誰だって老いは避けられないものですからね――

 とおっしゃりながら、柏木に御目を据えてじいっとご覧になります。

ではまた。