永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(桜襲色)

2008年09月22日 | Weblog
◆写真 桜襲(さくらがさね)の直衣
  表地が白、裏地が蘇芳で、全体の色合いが桜色。
  男女ともに、若い人の色。

  源氏は、衣裳に引き合うように顔も白く化粧をした。
  
  風俗博物館より

源氏物語を読んできて(167)

2008年09月21日 | Weblog
9/21  167回

【薄雲(うすくも)の巻】  その(6)

 「御しつらひ雛遊びの心地してをかしう見ゆ。姫君の襷引き結ひ給へる胸つきぞ、うつくしげさ添ひて見え給へる。」
――お飾り付けはすべて小さく、まるで、ままごとのように美しく眺められます。姫君がはい回るので、袴が落ちないように襷(たすき)がけに結んで差し上げているひもが、可愛らしさを添えていらっしゃる。――

 大堰の明石の御方は、姫君のことをいつになっても恋しく、あちらへむざむざとお渡ししてしまった愚かさに思い沈んでいらっしゃる。尼君もあのように立派なことを明石の御方に申したものの、涙もろくなっておいでです。けれどもあちらでの袴着のことなどお聞きになって、安心もし、うれしく思うのでした。

 「なにごとか、なかなかとぶらひ聞え給はむ。ただ御方の人々に、乳母よりはじめて、世になき色あひを思ひいそぎてぞ、贈り聞え給ひける」
――姫君への袴着のお祝いに、あちらでは万事に行き届いていらっしゃるところへ、何を差し上げたらよいでしょう。ただ、姫君がたの人々に、乳母をはじめとして、立派な色合いのご衣裳を急いでご用意して、お贈りなさいます――

 源氏は、姫君を手に入れたら案の定、お出でになるのが間遠いと思っておられるかと、明石の御方がお気の毒なので、年の明けない内にお忍びでおいでになります。さぞかし、あのような淋しいお住いにあって、大切な姫君とも遠くはなれていらっしゃることへの心苦しさに、

「御文なども絶え間なく使はす。女君も、今はことに怨じ聞え給はず、うつくしき人に罪ゆるし聞え給へり」
――明石の御方へは、お便りは頻繁に差し上げます。紫の上も、今はことさら嫉妬もなさらず、可愛い姫君に免じて大目にみておいでのようです。――

年が代わりました。
うららかな空に、何の不足のない二条院の御有様は、大層目出度く、磨き清められた御殿には、参賀にお集まりの年輩の方々がお出でになります。

◆写真:袴着のお支度
    左から紫の上、明石の姫君、源氏

ではまた。


源氏物語を読んできて(166)

2008年09月20日 | Weblog
9/20  166回

【薄雲(うすくも)の巻】  その(5)

 源氏は、山里に残る明石の御方の侘びしさを、思いやって、いとおしく思いますが、このように、紫の上が思いのままに姫君を愛育していかれると思えば、あちらも満ち足りた気持ちにもなることでしょう、などとお思いになります。が、

「いかにぞや、人の思ふべき疵なきことは、このわたりに出でおはせで、と口惜しく思さる」
――なんでまあ、紫の上にはこれという世間から差し障りになりますような疵(きず)など全くありませんのに、この御腹に御子がお生まれにならずに、なんとしても残念なことだ、とお思いになります。――

「しばしは人々もとめて泣きなどし給ひしかど、おほかた心安くをかしき心ざまなれば、上にいとよくつき睦び給へれば、いみじううつくしき物得たり、と思しけり。」
――姫君はしばらくの間、ここに居ないあの人やこの人を捜しては泣いておいででしたが、大体が素直で、かわいらしいご性格で、紫の上に大層よくなつかれますので、紫の上は本当に可愛いものを手に入れたとお思いになります。――

 紫の上は、他のことは差し置いて、姫君を抱きかかえてのお世話や、遊び相手をなさっておられます。源氏はもう一人身分の高い乳母を姫君のためにお抱えになりました。

 姫君の袴着のお式は、なにという格別なご準備もないようですが、それでもやはり並々ならぬお心遣いがうかがわれます。

ではまた。



源氏物語を読んできて(165)

2008年09月19日 | Weblog
9/19  165回

【薄雲(うすくも)の巻】  その(4)

こらえきれない悲しさに、明石の御方のうた、

「末とほき二葉の松にひきわかれいつか木だかきかげをみるべき」
――生い先長い姫君に別れて、私はいつ立派に成長なさったところを見ることができるでしょう――

源氏のうた
「おひそめし根も深ければたけくまの松に小松の千代をならべむ、のどかにを」
――あなたと私との深い契りの中に生まれた姫君ですから、ゆくゆくは二人でその出世を眺めましょう。気長にお待ちなさい。――

道すがら、源氏は、後に残った明石の御方の気の毒さに、ご自分の罪深さを思うのでした。

 暗くなって二条院へお着きになりました。一緒に付いて参りました明石の御方の侍女達には田舎じみた自分たちが、どんなにきまり悪いご奉公になることかと、思いましたが、

「西面をことにしつらはせ給ひて、ちひさき御調度ども、うつくしげに整へさせ給へり。若君は道にて寝給ひにけり。抱きおろされて、泣きなどはし給はず。」
――紫の上は、西面(にしおもて)に姫君の御座所(おましどころ)を特別にご用意なさって、小さいお道具類を、見るも美しくお揃えになっておりました。明石の姫君は道中寝てしまわれて、車から抱き下ろされてもお泣きにはなりません――

「こなたにて御くだものまゐりなどし給へど、やうやう見めぐらして、母君の見えぬをもとめて、らうたげにうちひそみ給へば、乳母召し出でて、なぐさめ紛らはし聞え給ふ」
――姫君は、紫の上のお部屋でお菓子を召し上がったりなさるけれども、次第にあたりを見回して、母君の姿が見あたらないのを探しながら、可愛らしく泣き顔をなさるので、一緒に付いて来ました乳母をお呼びになって、気をまぎらわせてお上げになります――

◆たけくまの松=武隈の松=奥州にあって古来双生で名高く、夫婦に譬えています。
◆ここの幼子の描写は、女性作家ならではの繊細な描写と言われています。

ではまた。




源氏物語を読んできて(牛車・半蔀車)

2008年09月19日 | Weblog
◆写真:半蔀車(はじとみぐるま)

 屋形の横にある物見窓が、引き戸ではなく、上に押し上げる半蔀戸になっていることによる名称。屋形そのものは、檜の薄い板を編んでおり、網代車の一種である。上皇、親王、摂関、大臣の他、高僧や女房が用いることもある。

○明石の姫君はこのような牛車で二条院へ向ったのでしょうか。

源氏物語を読んできて(牛車・八葉車)

2008年09月19日 | Weblog
◆写真:八葉車(はちようくるま)
 
 網代車の屋形や袖に八つの葉の装飾文様(八曜とも)をつけたもの。文様の大小により、
大八葉車や小八葉車がある。
前者は親王や公卿、高位の僧が用い、後者は少納言、などの中流貴族、女房などが乗車した。

○お付きの女房たちはこのような牛車で続いたのでしょうか。