
モリー・ブルームは五輪を有望視されたモーグル選手から一転、26歳で私設ポーカールームのオーナーに。500万ドルもの富を築くが、逮捕されすべてを失う。
ソーキンは不屈の女性の栄光と挫折を主軸に、スキーのスパルタ指導をする厳格な父との関係をからめ、さらにポーカー映画の側面でも観客を楽しませる。
ただしソーキンは当初、モリーの回顧録の映画化に気乗りしなかった。
ポーカールームには彼の友人を含む著名映画人も出入りしていたと報じられたから。
だがモリー本人に会って考えを改める。
彼女は顧客だったセレブたちの名前を明かせば大金を得られたのに、そうしなかったことにソーキンは感銘を受けた。
モリーの弁護人になることを最初断りながら、彼女の実像を知って引き受ける架空の弁護士に、脚本家は自身を投影している。
これまでも「ゼロ・ダーク・サーティ」「女神の見えざる手」など男性優位主義の世界でタフに生きる女性を演じてきたジェシカ・チャステインに、モリー役はまさにうってつけ。
飾り気のないスポーツ女子からセレブが集う賭場の華麗な女主人へと変貌し、降りかかる災難や逆境を自らの才覚で切り抜けていくヒロインを美しくしなやかに体現した。
特に重要なソーキンの創作部分は、アーサー・ミラーの戯曲「るつぼ」への言及。
これはアメリカで17世紀末に起きたセイラム魔女裁判を題材にしつつ、発表当時に国を揺るがす問題となっていた赤狩りへの批判を込めた作品。
偽りの魔女の告白をすることを拒み処刑台に送られる主人公に重なるのは、共産主義者を公職などから追放するための証言を拒んだ人々だ。
ソーキンもまた、顧客を“売る”ことを拒んだモリーに、映画界の偉大な先達に通じる高潔な精神を見いだした。
あるいはポーカーになぞらえるなら、強力な役を引き当てたと確信した。
これこそがソーキンの妙手であり、転落と挫折からの再起を象徴するモーグル選手時代の印象的なシーンともに、善と勇気のありようを示すポジティブな要素としてひときわ輝きを放っている。