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それとも賢いですか?
気分を害するかも知れないが、大抵の人はバカの範疇に入るだろう。
学歴とかどれだけ成功しているかはまったく関係がない。
人間は取り返しのつかない愚かなことをしでかす生き物であり、だからこそ「偉い人の立派な話」が珍重されるのかも知れない。
「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」は、われわれバカどものための、バカ界のチャンピオンの生き様を描いた大傑作。
バカ界のチャンピオンとは、実在の元フィギュアスケーター、トーニャ・ハーディング。
スポーツ界のみならず世界でもトップレベルの“ロクでもない女”として悪名を馳せた嫌われ者だ。
というのも、1994年にハーディングのライバルだったナンシー・ケリガン選手が何者かに襲撃され、事件の黒幕としてハーディングの名前が浮かび上がった。
それでもハーディングはリレハンメル五輪行きを勝ち取ったが、今度は演技中にジャンプに失敗。
泣きながら靴紐のせいだと強弁して審査員にやり直しを認めさせたのである。
世界中が思った。
ライバルの選手生命を断とうとしたこのビッチは、いけしゃあしゃあと五輪に出場して、試合中のぶざまな失敗をナシにしてもらおうとワガママを言っているのだと。
本作はそんな恥ずべき事件の真相を当事者であるハーディングに語ってもらい、それをもとに作られた伝記映画だ。
「ラースと、その彼女」のクレイグ・ギレスピー監督と脚本のスティーヴン・ロジャースは冒頭ではっきりと宣言する。
この映画はハーディングと、他の関係者の証言をもとに作りました。
本当かウソかはともかく、彼らはこう言っているのです、と。
つまりこの物語で描かれる真実はすべて主観である。
ただし、それぞれの言い分がぶつかりあって、矛盾や真相が浮かび上がる心理ミステリーには決してならない。
なぜなら本作には本当に「バカしか出てこない」。
誰もがその場限りの杜撰なことしか考えておらず、どこにも深みのある真実なんて宿らないのだ。
しかし深みがないからこそ、バカな人々の限界や愚かさ、そしてそれでも生き抜かなくてははらない人生の切実さが浮かび上がってくる。
非常に優れたブラックコメディでありながら、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」や「レイジング・ブル」をも想起させる、泥水をすするがごときピカレスクロマンに心から感動した。