原作では、あっさりと幕が閉じるのに引き換え、ここではふたりの人間の心の触れ合いにより、仄かな希望を感じさせる。
今までの村上春樹作品を実写化した印象は... 物静かなトーンや、淡々とした語り口、そしてなんとなくオシャレ仕上げ。
実写化では、あくまでも原作者ではない脚本家が加筆しキャラクターを作り上げてきた。
その分、原作者が意図としていないキャラクター設定に対して遠慮があったのか、それ程実写ではキャラクターが掘り下げられずに、映画が終わってから、見た側が想像を膨らませて余韻を楽しんでいたのかも。
「ドライブマイカー」では細やかにキャラクターが作りこまれ、見ている側に情報を提供してもらえはするが、そのキャラクターを背景とするスクリーン内での行いは、表面的には穏やかでも水面下ではさまざまなことが起こる。
そしてそれが一層示唆に富んだ深いものにしている。
登場人物の人間関係、急に刃を向く登場人物、過ぎ去った過去、劇中劇チェーホフの「ワーニャ叔父さん」、過去の自分から現在の自分への引継ぎ...
醸し出される映像での不穏な空気が、複雑な人間関係に陰影を与える。
そして最後には、善も悪もないニュートラルなキャラクターが心に影響を及ぼす。
ベートーベンの音楽がひたひたと心に沁み入る作品。
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