礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

スター軍籍簿(『ゴシップ10年史』より)

2013-02-12 10:22:31 | 日記

◎スター軍籍簿(『ゴシップ10年史』より)

 九日のコラムで、内外タイムス文化部編『ゴシップ10年史』(三一新書、一九六四)という本を紹介した。この本は、巻末の「付録」が非常に充実している。その付録のひとつに、「軍籍簿」というのがあった。芸能関係者の戦中における「兵隊の位」の一覧である。本日はこれを紹介してみよう。

 軍籍簿
名 前    兵隊の位  参考表
三輪礼二   海軍少佐  現プロデューサー。指揮掌握力ややにぶる。
松林宗恵   海軍大尉  「人間魚雷回天」が最高傑作。戦後は遠くなりにけり。
鶴田浩二   海軍中尉  兵隊より市井遊侠のニイサンの方がうまい。
西村 晃   海軍中尉  学徒出陣組だが、陸軍伍長や、刑事役の方が多い。
池部 良   陸軍中尉  終戦直後、軟弱の徒のチャンピオンになる。コペルニクス的転回をする。
中村 登   陸軍中尉  姿から推すに率先垂範したにちがいない。なんでもまずやってみせる。
南 道郎   陸軍中尉  軍人精神の権化。いまも天皇帰一を信じる。しかし少尉より兵長の方がうまい。
菅佐原英一  陸軍少尉  イメージちょっと湧かず。
小林正樹   陸軍少尉  人間の条件ギリギリまで戦ったが、切腹は思いとどまった。
吉村公三郎  陸軍少尉  案外ビシビシとキタエたようす。
佐藤英夫   海軍兵学校在学中  大酒飲みなので卒業したとしても提督コースには乗らなかっただろう。
平田昭彦   海軍経理学校在学中  東大に復学、久我美子を妻にする。銀行に就職したとしても楽に支店長にはなっているはず。
小沢昭一   海兵予科舞鶴分校在学中  入った小沢に罪はなく、採用した帝国海軍に責任がある。
佐野周二   陸軍曹長  よくそこまで漕ぎつけた。
加東大介   陸軍軍曹  衛生軍曹だったが薬品不足で芝居ばかりやっていた。偉勲は南の島に雪を降らせたこと。
市村俊幸   海軍一等兵曹  ピアノのキイを叩かず、水兵のシリを叩いたのでは? と推察する。
高原駿雄   陸軍伍長  高射砲隊にいた。B29を墜したこと、いちどもナシ。
吉田 正   陸軍伍長  ラーゲリではアクチーブの目をかすめて作曲、帰国船上ではインターを合唱、復員後は「異国の丘」をはやらせる。
三橋達也   陸軍伍長  道楽はいまでも鉄砲をいじること。
トニー谷   陸軍伍長  要領の悪かろうはずはなし。
八波むと志  陸軍兵長  交通戦争にカミカゼ出撃して散華。文字通り故陸軍兵長となる。
柳屋小さん  陸軍上等兵  “古参”上等兵だった……というのはウマクナイかな?
霧島 昇   海軍一等水兵  軍艦には乗らず、もっばら陸上で歌のサービス。海軍は適材を適所で使った好例。
高田浩吉   陸軍一等兵  “イタワシイ”といって銃後の妻たちは前線の夫以上に彼の安否をきづかったトカ。
立原 博   陸軍一等兵  反戦抵抗者である。北支で脱走、延安までは逃げ切れず軍法会議に付せられ、終戦まで獄中生活。
佐野浅夫   陸軍二等兵  四ヵ月で敗戦。ずい分なぐられただけで、一発もなぐらずじまい。
長谷川一夫  陸軍二等兵  敗け出すと雪之亟までもが狩り出され。
尾上九朗右衛門  陸軍二等兵  この“上”もなく“苦労”したそうです。
清村耕次   陸軍二等兵  砲兵大隊に入ったが砲の操作に習熟するまでもなく終戦のミコトノリ。
小林桂樹   陸軍二等兵  デビュー作が「将軍と参謀と兵」の兵。サラリーマン精神で御奉公した。
上原 謙   即日帰郷  ウマイことやったという説、天皇も「愛染かつら」の津村を二等兵にするにはしのびなかったという説の二説があり。

 すでに故人となられた方がほとんどである。小沢昭一さんも、昨年一二月に亡くなった。
「参考表」にある言葉には、すでに死語になった言葉が多い。「ラーゲリ」は、旧ソ連の日本人捕虜収容所のこと。「アクチーブ」は、そこにおいてソ連側に立って活動した日本人の「積極的活動分子」、「インター」は、革命歌(一時、ソ連の国歌でもあった)の「インターナショナル」のことである。

今日のクイズ 2013・2・12

◎「異国の丘」について、正しいのはどれでしょうか。

1 作詞者・作曲者とも不明。作曲家でシベリア抑留経験がある吉田正が、戦後、世に広めた。
2 吉田正がシベリア抑留中に作曲。作詞は、同じくシベリア抑留中だった増田幸治。今日歌われているタイトルと歌詞は、佐伯隆夫補作。
3 吉田正が別の軍歌として作曲。これに増田幸治が詞をつけたものが、シベリア抑留兵士の間で歌われていた。

今日の名言 2013・2・12

◎敗け出すと雪之亟までもが狩り出され

 内外タイムス文化部編『ゴシップ10年史』(三一新書、1964)の付録「軍籍簿」で、長谷川一夫の項に付されているコメント。長谷川一夫は、戦前、林長二郎を名乗っていた時代に、映画『雪之亟変化』〈ユキノジョウヘンゲ〉(松竹キネマ、1935)で、中村雪之亟に扮して好評を得た。


 

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2月10日・11日の名言ほか

2013-02-12 10:12:28 | 日記

◎2月10日・11日の名言ほか
 
 一〇日・一一日は、ブログをお休みしましたので、両日の「名言」、および【2月9日のクイズの正解】のみをお届けします。

今日の名言 2013・2・10

◎変革期とは、変えたくない人々が顕在化してくる時代でもある

 哲学者の内山節〈ウチヤマ・タカシ〉さんの言葉。2月10日の東京新聞「時代を生きる」欄にで出てくる。

【2月9日のクイズの正解】 1 『或る夜の接吻』 ■『或る夜の接吻』は、1946年の大映映画。主演は、奈良光枝。主題歌は「悲しき竹笛」で、これを近江俊郎と奈良光枝が歌っている。奈良光枝は、もともと歌手であるが、この映画では、いきなり主役に抜擢され、以後は映画俳優としても知られるようになる。*2月9日に、『ある夜の接吻』と表記しましたが、『或る夜の接吻』が正しいようです。遡って訂正したことをお断り申し上げます。

今日の名言 2013・2・11

◎蔵書を減らすのは至難のわざだ

 朝日新聞の藤谷浩二記者の言葉。2月11日の朝日新聞文化欄によれば、蔵書家が本を持ち寄り、「集合本棚」をつくる構想が持ち上がっているという。

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