◎平凡社の「人間の記録双書」(1956~)
昭和三〇年代に平凡社から、「人間の記録双書」というシリーズが出ていた。国立国会図書館のデータで確認すると、二七冊が確認できるが、これが全部であったかどうかは不明である。また、この当時の平凡社には、のちに民俗学者となる谷川健一が在籍していたはずだが、彼がこの企画にかかわっていたのかどうかは、まだ調べていない。ちなみに、有名な平凡社「日本残酷物語」シリーズの刊行が開始された(一九五九)のは、「人間の記録双書」開始(一九五六)の三年後である。
いま、机上に、その「人間の記録双書」シリーズの一冊、佐藤一〈ハジメ〉『被告――松川事件の二十人』がある。一九五八年(昭和三三)一〇月二五日が初版で、同年一二月三〇日には、早くも第五版を出している。
奥付ページの上部に、「人間の記録双書の読者へ」というものが載っている。本日は、これを紹介してみよう(改行は、原文のまま)。
人間の記録双書の読者へ
この双書は、いままでのジャーナリズムがやってきた
仕事とは、少し趣きが変っております、それは著者のほ
とんどが無名であり、しかも文筆を書くことを職業とし
ている人びとではないことです。ただ、人生にまともに
立向って、せいいっぱいに生きぬいてきた人びとである
ということです。たとえ企画に著名な筆者が加わったと
しても、この双書の中では、まったく無名の大衆の一人
となり、一職業人としての、人間的苦脳や、喜びやを率
直に書き綴っております。私たちは、これら無名有名の
大衆の自伝を通して、現代日本の生きた歴史と、社会の
しくみを明らかにし、日本人の中に潜む、思想、知恵、
エネルギーを、ありのままに編みだして、読者にお伝え
したいと思うのです。
読者の周辺に、あるいは読者ご自身、この企画にふさ
わしい筆者ならびに記録をお持ちの方がおられました
ら、ご一報いただければ望外の幸いです。