◎日本歴史始まって以来、最も重大な会議
「時事叢書」の第九冊、大屋久寿雄著『終戦の前夜――秘められたる和平工作の諸段階』(時事通信社、一九四五年一二月)を紹介している。
本日は、「近衛公の派遣決定」の節の、最初の部分を紹介する(二〇~二一ページ)。
近衛公の派遣決定
六月二十二日、鈴木首相以下最高戦争指導会議の構成員全部に対し、天皇陛下から突如緊急のお召しがあつた。かかることは極めて異例のことであつたが、この日は陛下自身の御発意に基き最高戦争指導会議が御前において開催されたのである。
会議の内容に関して詳しいことは窺ふベくもないが、席上、陛下には畏き〈カシコキ〉ことながら、はじめて公式に
「何とか戦争終結の方図〔方途〕があるのではないか」との御趣旨の御発意をなし給ひ、更に
「ソ連を仲介とする対米・英和平の実現といふことについても考慮すべし」との叡旨を各員に対して御披露あそばされた由である。
この日の御前会議こそは日本歴史始まつて以来最重大な会議であつたといふべきである。即ち上掲外務省報告書のいはゆる「速かに戦争を終結せしめて人類を戦争の惨禍より救はんとの大御心」はこのときはじめて最高戦争指導会議に対して御闡示〈センジ〉あらせられたのであつた。これより三日前、対ソ交渉案の内奏に参内した東郷外相に対して陛下がなしたまふた終戦方図に関する御下問はいまだ陛下の正式な御意志表示とは称し難いといへるが、六月二十二日のお言葉は既に至尊の御聖断として仰ぐべき性質のものだつたのである。いまや群臣論議の余地なきものとされた。ただ命是れ従ふあるのみであつた。
陛下は明かに今次の戦争の終結を命ぜられてゐる。そしてその方法の一つとしてソ連の仲介幹旋による対米・英和平を御示唆あらせられた。しかし、これ以外には別段の具体的御指示は拝されなかつたとのことである。即ち条件、形式その他についてはすべて最高戦争指導会議において考究すべきものと解されたわけである。【以下、次回】