礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

指揮権発動「四人男」と森脇将光

2017-12-18 01:41:12 | コラムと名言

◎指揮権発動「四人男」と森脇将光 

 昨日の続きである。森脇将光の主著『風と共に去り風と共に来りぬ』全五巻を紹介している。昨日は、同書の宣伝チラシと思われる印刷物のオモテ面を紹介した。
 本日は、そのウラ面を紹介してみたい。このウラ面では、ほぼ全面を使って、「一大口マンを終った人の気持」と題する、著者・森脇将光の文章が紹介されている。文章はタテ書きで、タイトルの上に、机の前に座っている著者の写真がある。また、文章中には、中国・四国地方の地図がある。また、全体の左側に、「森脇文庫は皆様の文庫です」などのメッセージがある。

  一 大 口 マ ン を 終 っ た 人 の 気 持
              森 脇 将 光
 颱風にはその中心をなす目があるといわれている。その目は静かで周辺に怒涛のごとき暴風が逆いて〈サカマイテ〉、非常な勢いで移動するのだ。静と動がいちじるしい対照をなして颱風は構成されている。この三年の歴史においても、この自然現象をそのまゝ写しとった、社会現象的な目があるということを発見することが出来た。静なる天下の景勝瀬戸内海をめぐって、天下動乱風雲の嵐をおこした目があったのだ。
 というのは疑獄、汚職――そして指揮権発動という八千万国民にしかけた謀略は、この図解が示すように、揃いも揃って山口県から佐藤栄作〔自由党幹事長〕、その隣広島県から池田勇人〔自由党政調会長〕、またその隣岡山県から犬養健〔法務大臣〕、それを扇の要にしぼったように、内海を越えて高知県から吉田茂〔総理大臣〕、この四人男によってなされたのだった。
 一方私にしかけられた岩窟王もどきの謀略も、さる昭和二十七年〔一九五二〕六月、暢気〈ノンキ〉な気持で四国路の旅についたその翌日、東京から思いがけぬ怪電話があり、私の会社が警視庁捜査二課永里主任一行による大家宅捜索をされたということを知ったが、この四国で聞いた怪電話こそ、後に一世を震駭し、天下に怒涛の如き大事件を起す因縁を奇しくも含んでいたのだった。私への降って湧いたようなこの不思議なこの謀略事件が、もしなかったら、世を騒がした疑獄、汚職、指揮権発動、乱闘国会、吉田暴言もなく、至極天下泰平であったかもしれない。
 そう思うにつけ、私への謀略事件も、国民にしかけられた指揮権発動も、ともに万丈の波瀾を天下に捲きおこした、あの大嵐の発生の静かな目は、この瀬戸内海の周辺にあったといえよう。考えれば考えるほどなやましい感情にとらわれる。一体何故だろう。どういう訳だろう。
 しかも、それら二つながらの謀略は、それを背に抱いた島根県を出身地とする、一介市井〈イッカイシセイ〉の野人たる私の手になった「森脇メモ」によって打砕かれ、奇しくも那須の与一が壇の浦で、平家の軍船にあげた扇の要を見事射通した姿をそのままに、指揮権四人男の扇の要である高知吉田をみごとに射通しているではないか。そう思うにつけ、その感は更に深い。
 本年〔一九五五〕四月岡山に来て、新聞社主催の講演を終った翌日、自動車を駆って鷲羽山の展望台に登った。こゝは内海を一望のうちに見渡し、四国の野も山も指呼のうちにあり、三年前かつて遊んだ屋島も遥か彼方の波に浮んで見えた。噫〈アア〉あの屋島で、あの東京からの怪電話、三年前を追うごとく私はそれを想い出していた。静なる目はこの地この時にはじまり、やがて動へ、闘って闘いぬいた私、小説よりも奇なりの暗黒を切りぬけてこゝまで来た私。私は些かも傲慢ではなく、謙虚な精神で、
「われ勝てり」
 の感慨をほしいまゝに、三年の苦闘を抜けた後の光風霽月〈コウフウセイゲツ〉、将に男子の一大欣快事であった。それやこれや思うにつけ、あゝ不思議だ、珍しい因縁だ、なやましい出来事の連続だ、私ならずとも、多くの人たちが、これを識って蠱惑〈コワク〉的な感情にとらわれるのではないだろうか。今や動はおさまり、静が来たり、かつ来つゝあるのである。それはかつての颱風の目のようなものではない。一つの醜悪なものが、払拭されての静=なのだ。
 私は一大口マンの終った人のような気持で、いつまでもこの展望台に立っていた。
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