礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

済州島では孤立した丸山をmoruという

2021-11-14 01:35:40 | コラムと名言

◎済州島では孤立した丸山をmoruという

 雑誌『言語』第三巻第五号(一九七二年二月)から、山中襄太の論文「ミッシングリングを求めて――地名と地名用語」を紹介している。本日は、その四回目。
 本日は、「地形用語」の解説のうち、「⑷ムレ(牟礼)ムロ(牟婁)モロ(毛呂・茂呂・諸・師)モリ(森・守)」、「⑸クキ(岫・峰・崖・涯・洞・谷)」、「⑺カイ(カヒ。峡・甲斐)」の三項を紹介してみたい。

 ⑷ムレ(牟礼)ムロ(牟婁)モロ(毛呂・茂呂・諸・師)モリ(森・守) 日本書紀に朝鮮の山の名をコサノムレ(古沙山)、ヘキノムレ(辟支山)などと読んである。今でも大分県に熊牟礼山(クモノムレヤマ)、栂牟礼山(ツガムレヤマ)などがある。ムロは紀伊半島南部に東西南北四つの牟婁(ムロ)郡があるがみな山地である。アイヌ語では岡をmoriという。朝鮮の済州島では孤立した丸山をmoruという。山を満洲語でmulu、サモエード語でmori、ヤクート語でmuron、アッカド語・バビロン語でmuluという。
 ⑸クキ(岫・峰・崖・涯・洞・谷) ガケ(崖・涯)と同源だろう。地名に釘本(岫本)・洞海(クキノウミ)・小谷(ウクク。琉球地名)などがある。朝鮮語kokai(峴。Steep hill)、オスチャク語kox、蒙古語kö、フィンランド語kivi(石。岩はクキを形成するもの)などと似ている。
 ⑺カイ(カヒ。峡・甲斐) ヒラ即ちガケになった狭い谷をカイ(峡谷)という。甲斐は当字。甲斐の国はカイ(峡谷)が多くてそれを潜らなければ他国へ出られないからの名だという。カイ(カヒ)は古音カピだが峡(カイ、カヒ)の字音も古音ケプからケフ、キョウとなった。だから古音で比較すると、峡の訓読(日本語)カピと音読ケプとはよく似ている。このカピという日本古語とケプという中国古語とは偶然似ているのか、貸借関係か或は同源の姉妹関係かはよく研究してみる価値があるだろう。他にも日本語と外国語との類似の中にこういう種類のものが少くないという事実があるのだから。さて古代朝鮮の高句麗地理志に見える甲比忽次(カピクツ)という地名を「穴口」と漢訳してあるが、穴とは洞穴・空谷・溪谷・峡谷のこと。口は入口。だから甲比忽次(カピクツ)とは峡口(カピクチ)・穴口・洞口・溪口であり日本地名の谷口と同義である。峡谷(カピ)を東南アジアのチャム語・ワ語でkap、バナル語・スティエン語でgap、クメル語でgab, kiep、ヒマラヤのレプチャ語でgyopという。これらは古代北欧語や英語などのgap(峡谷・割目・裂目・穴・間隔・距離)、gape(裂目・大口をあける)などとも似ている。

 ⑸の項に、「朝鮮の済州島では孤立した丸山をmoruという」とあった。それで思い出したが、伊豆半島にある大室山・小室山は、いずれも孤立した丸山である。

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