礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

他国に依存して自国の安全を図る外交は国を滅ぼす

2021-11-21 04:41:25 | コラムと名言

◎他国に依存して自国の安全を図る外交は国を滅ぼす

 本多熊太郎講述『世界新秩序と日本』(東亜連盟、一九四〇年一〇月)から、「現前の世界情勢と日本の立場」を紹介している。本日は、その五回目。

   其 の 四
 英国が極東において今日のやうな弱い立場に立つたのは彼等の心掛が悪いからである。私の見る所では、最近四、五年来英国の外交は非常に行詰つてゐる。英国は世界戦争終了後少くとも十年間は世界に戦争はないといふ一つの仮定の下に軍備を怠つた。ベエルサイユ条約当時は英国は世界第一の空軍を持ち又世界の海軍国であつたが、これを大に縮少した。米国と一緖になつて日本の海軍を抑へたが、自分も軍備を閑却した。之は飯も食はすに金を貯め、金は貯つたが栄養不足に陥つたやうなものだ。
 斯くの如くにして英国はベエルサイユ条約に依つて確保された地位を背景にして楽に現状維持をする政策を執つたのだが、それが段々行はれないやうになって来た。そこで今から五年前十五億磅【パウンド】五ケ年の大軍備計画を樹てた。この軍備の第一の目標はドイツであつて、万一の場合には、ロンドン、マンチエスター、サザンプトン、プーマス等の海軍根拠地、輸送根拠地が敵機の空襲を受けるからドイツ空軍に対する安全を図るため英国は第一に空軍の充実、第二に地中海における海軍力の充実であつた。イタリアはぐんぐん強大国となり、エチオピヤ問題でイタリアを取つて押へようとしたが果さなかつた。即ち合計約七十万噸の艦隊と空軍を地中海に入れたがイタリアの特殊艦艇と飛行機に追廻され三方、四方に逃げ廻つた恥を再びせざるべく地中海における海軍並空軍の根拠地完備を図ると云ふのである。第三はシンガポール海軍根拠地の拡充である、シンガポールに日本の常備艦隊に匹敵する主力艦五隻を基幹とした大艦隊を集中させ、五万噸の浮船渠〈ウキセンキョ〉を備へ、更にいざ事ある場合本国から大艦隊をシンガボールへ持つて来るといふ計画であつて、即ち英国大軍拡の第三目標は極東において日本と戦ふ場合日本を抑へるに足る大海軍、大空軍を備へようといふのであるがこの計画半〈ナカバ〉において欧洲戦争が勃発したのだ。
 英国が一九三五年〔昭和一〇〕の国防計画を決定した当時、時の外務大臣はその選挙区で演説したが、その演説によると英国の軍備は、第一に英本国及英帝国を構成する自治領、植民地相互間の交通路の安全を図る。第二には英帝国が同盟によつて其の国の領土、独立の保障を与へてをるフランス、ベルギー、エヂプト、イラク、ポルトガル諸国防衛のために用ゐる。又連盟の一員として連盟の決議に従つてその義務を果すため必要なる武力行使をやる。この最後の意味は、例へば国際連盟で、支那に武力的援助を与ふべしといふ決議をしたならば、その決議に従つて英国の武力を使つて日本と戦ふのだといふ意味になる。
 由来英国は前大戦以来現状を保全して国民の血を流さない方針で進んで来たが、ヒトラーのドイツが強くなつて来るや英国は茲に国防外交方針を一変して独逸包囲の為めチエツコ、ポーランドを利用し様と考へ其独立保障を約束した。チエツコは一昨年滅びたが、英国から独立保障を貰つた国を順序を追つて名を挙げるとチエツコ、ポーランド、ベルギー、ギリシヤ、トルコ、ルーマニア等で、英国から独立を保障して貰つた国は段々と相継いで敗亡しつゝある。最近ではルーマニアは英国の独立保障が当〈アテ〉にならないといふので其の保證を返上してしまつた。ポーランド、ノールウエーの例を見ても英国の保障なるものは一つとして行はれてゐないのである。斯様に英国はドイツに対抗する為めに小国を利用する一方、軍備拡張を着々進めてゐたのであるが、ポーランド問題が破裂してドイツが英仏から宣戦布告された時はヒトラー総統も少し面喰らつたのである。だから初めに平和攻勢をやつて何んとか本気で戦争せずに済ませたいものと七ケ月間隠忍して機会を見てゐたが、遂に英仏はその態度を改めないので猛然一撃を加ふべく、本年〔一九四〇〕五月十日兵をオランダへ入れてから僅か六週間にしてフランスを降服さす所までやつてしまつた。フランスも英国におだてられて彼に利用されてゐたばかりに、あの大国も降伏してまひ而も今度は、英国はフランスに対して、フランスの軍艦を皆寄越せ〈ヨコセ〉と要求し、その要求をきかなかつた所、英国首相〔チャーチル〕のいふ通り、「最も苛烈なる手段を用ゐて」フランスに対して攻撃を加へた。昨日まで生死を誓つてゐた同盟国に、しかも同盟の義務を果して中道に敗亡したフランスを攻撃するとは何んたる非道であらうか。この事は、長いものに巻かれろで他国に依存して自国の安全を図るといふやうな外交をやつてゐたのでは、国が滅びるぞといふ一つの実物教訓である。【以下、次回】

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