◎サンマルコ大聖堂で裏切られたラングドン教授
先月の中ごろ、DVDで映画『インフェルノ』(コロンビア、二〇一六)を鑑賞した。出だしの部分が分かりにくく、最初の部分のみ、何回か再生を繰り返した。話が呑みこめてからは、がぜん面白くなった。
アッと驚いたのは(ネタバレご容赦)、主人公のラングドン教授(Tom Hanks)が、味方だと思っていた女性医師シエナ(Felicity Jones)に裏切られる場面である。
場所はヴェネツィアのサンマルコ大聖堂(サンマルコ寺院)。ラングドンとシエナは、WHOの一員と称しているブシャール(Omar Sy)による追跡から逃れるべく、いったん大聖堂の地下室に降り、そこから広場に出ようとする。この時、シエナは広場にいた露店商の女(Maria Grazia Mandruzzato)に助けを借りて、地下室から脱出できたが、ラングドンはシエナの裏切りに遭って地下室に取り残され、ブシャールに捕らえられる。
なお、シエナの脱出を手助けした露店商(クレジットでは、Roma merchant)は、手助けをする前に「100ユーロ」を要求している。この設定は、この民族に対する偏見(ステレオタイプ)に基づくものではないのか、と思った。
それにしても、シエナに裏切られたことがわかった瞬間、トム・ハンクスが見せる苦悶の表情に、同情を禁じえなかった。なお、この映画に限ったことではないが、トム・ハンクスという役者は、困惑や苦悶を示す演技に光るものがある。