礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

欧洲戦争は完全に英国側の敗北である(本多熊太郎)

2021-11-22 00:42:59 | コラムと名言

◎欧洲戦争は完全に英国側の敗北である(本多熊太郎)

 本多熊太郎講述『世界新秩序と日本』(東亜連盟、一九四〇年一〇月)から、「現前の世界情勢と日本の立場」を紹介している。本日は、その六回目。

   其 の 五
 日本の支配階級が如何に英米依存外交に汲々してゐたか、議会の速記録を見れば幾等で&其の證拠が出て来る。昨年の議会でも、日独伊同盟問題に関し或る議員から「日独伊防共協定を強化することを国民が希望してゐる。政府はどうするつもりであるか」との質問に対し、外務大臣は「独伊との防共条約を此の上にも強化することは政府も必要を認めて同感である。併しそれは何処までもコミンテルンを対象とする防共だけの提携強化であり、東亜新秩序建設と世界に於ける日本の地位強化のためには英米仏の好意的諒解を必要とする」と答へてゐる。これでは一体何のことか解らない、まるで洞ケ峠である。世界は今日現に現状維持国と現状打破国の二つに分れてゐる。独伊は現状を打破して欧洲の新秩序建設に邁進してゐる。日本は東亜新秩序建設を目指して支那で戦争をしてゐる。其の相手の蒋介石を援けてゐるのは前に言つた通り英米仏であり、ソ連である。然るに東亜新秩序建設のためには何処までも英米仏の好意を必要とするとは何事であるか、こんなことが日本武士道精神のゆるすところであらうか。
 凡そ、外交上日和見的な二股外交は、策の最も拙な且つ危険なものである。ポーランドを見ても解る。フランスを見ても解る。独伊の目覚しい勝利を見て、日本の指導者の中には、親英米論者が俄に親独伊に転向する者もある。斯ういふ長い者に巻かれろといふ根性がいけないのである。今日の日本は、独自の力でぐんぐんと日本の為すべきことが出来る絶好の時機にあるのである。
 欧洲戦争は完全に英国側の敗北である。今回の欧洲戦争では、英仏の同盟に依つて、陸軍は主としてフランスが受持ち、英国は若干の陸軍を大陸に派遣する。海上は英国が受持ち、空軍もまた英国から司令官を出すこととされた。フランスの動員した陸軍は四百万に達したと言はれるが、これが、フランス政府当局の言葉を藉りて言つても「支離滅裂」の敗北を契し、ドイツ軍に捕虜となつたフランス陸軍は百九十万に達し遂に降伏するより他に道はなくなつた。フランスの降伏即英国の徹底的敗北である。然るに英国は、これから英本国に拠つて長期戦をやるんだと強がりを言つてゐるが、そんなことが出来ると思ふ者はない。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。そんなことは出来るものぢやない。英国は、二十五万の精兵が本国へ逃げて来たと発表してゐる。敗残兵の士気がどんなものであるかは言ふ迄もない。英国の言ふ精兵のセイは生兵〈セイヘイ〉の間違ひであらう。そんな者は幾等居つても役には立たない。ドイツは既にフランスを完全に占領してゐるのである。英国はどうして、再び仏国を自分の方に取り返へさうと云ふのであるか?そんなことは出来る筈はないのだ。私がむかし哈爾浜〈ハルビン〉の総領事をして居つた頃、懇意なロシヤの将校をひやかしてやつたことがある。毎年夏になるとロシヤの在満軍団が大演習をやる。其の仮想敵国はいつも日本であつて日本軍が吉林〈キツリン〉に入つてそれから何処其処を斯う攻めて口シヤへ進入するといふ一つの仮定を作つて演習をやつてゐる。それを見てゐると実に滑稽である。一体君達は日本を敵と思つてそんなことをやつてゐるか、日露両国は親類同志ぢやないか……と言つてやると、その将校は「日露戦争でロシヤは負けたのですから我々にはステツキを見ても鉄砲に見える程、日本が怖いのです」ピ言つてゐたが、英国の敗兵は、ドイツに対して其れと同じやうな心理が働いてゐるのだらう。ドイツがオランダに兵を入れたのは五月十日、それから六月十七日フランスが無条件で降伏するまで僅か四十日である。而してドイツが今どういふ立場に居るかといふと、北はノルウエーのナルブイクから南はフランスとスペインの境に至る約五千キロ、これが全部英国に対する陸海空軍の攻撃根拠地となつて英国を取巻いてゐる。英国の必要とする食糧及原料品の大部分は海外から輸入してゐるのであるが、英本国に近付く船は、ドイツの軍艦、潜水艦が見逃す筈はないのである。斯う云ふ状况の下に英本国の守りを全うすることが已に〈スデニ〉中々の至難事である、何ぞ况んや、フランス、ベルギーから、勝ち誇れる独軍をおつぱらうをや、それは夢のような話だ。【以下、次回】

 文中、「昨年の議会」とあるのは、たぶん、第七四議会(一九三八・一二・二四~一九三九・三・二五)のことであろう。だとすれば、その時の外務大臣は、有田八郎である。
 また、文中の伏字は、小冊子に収録する際にとられた措置であって、秋田魁新報掲載時には、この伏字はなかったと推測する。ただし、この講演記録の初出が秋田魁新報であったことを確認しているわけではない。

※プレビューで見ると、伏字部分に二箇所、改行があった。原文では改行はないので直そうとしたが、直せなかった。念のため、注記しておく。

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