礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

外来宗教が日本に渡来して来ることは必至であります

2019-06-19 06:18:22 | コラムと名言

◎外来宗教が日本に渡来して来ることは必至であります

 松尾長造述『宗教団体法解説』(仏教連合会、一九三九)を紹介している。本日は、その六回目で、「二、制定の理由」の最後の部分を紹介する。ページでいうと、一四ページから一八ページまで。

 第六の理由は、宗教団体・宗教結社等に関する監督規定の不備と云ふ点であります。前述の通り教派・宗教・寺院・教会に対しましては多数の法規が現存して居りますので、文部省にしても地方庁にしても之等の宗教団体に対しては監督権を一般的に持つて居る。従つて,宗教団体に若し誤りがあれば之に注意する。御前はこんな事をしては駄目だと是正をする。所が屡々る述べた通り、基礎となる法規が多数で簡易化されて居ないから、神経質な被監督者になると、どんな事を云ひ付けられるか恐ろしい事だと心配する。さう神経質になることは要らぬか知れぬが、一般被監督者としてはさう思ふのであります。併し一般宗教団体の方はそれ程問題ではないと思ひますが、宗教結社の方になると監督規定の整備が更に痛切に要求されるのであります。何故ならば、宗教結社になると、何等宗教行政上の規則がない。従つて之は悉く警察取締に委ねられて居る。或は警察犯処罰令或は治安維持法と云つた様な具合で、悉く警察取締に委ねられて居る。然るに此の警察取締に関する法規は治安保持の立場のみから作られて居るので、宗教活動の弊害予防とか宗教界の実情に即応せる指導規定といふ様な点に於て著しく欠けて居る。つまり痒い処に手が届かぬと申しますか、細かい細工の出来る小刀の用意がないのであります。例へば何とか教事件とか、何とか研究会事件とか、色々新聞紙上に名前の出る宗教結社の事件は大抵新聞では全国的事件となつて現はれる。全国的の大事件となると事〈コト〉重大である。では何故〈ナニユエ〉に斯く全国的重大事件になつて初めて取締るのか。それには勿論色々の理由がありませうけれども、一つには適切なる指導的の規定がないからであります。小刀やメスが与へられてゐないで牛刀のみが与へられてゐるので、此の牛刀を思ひ切つて振ふ為に監督官庁は硏究に研究を重ね調査に調査を重ねるのであります。さうしてこんな悪い事が静岡にもあつた、京都にもあつた、福岡にもあつた、鹿児島にも北海道にもあつた、と研究調査を周密にした揚句、十目の見る所、十指の指す所、一点の疑ひなしとなつて初めて、よしやれツと一斉検挙となり新聞にゴタゴタと出る。斯くして宗教史上の不祥事として拭ふべからざる記録を残すのであります。併し私は平素から考へて居るのでありますが、人にしても団体にしても十が十全部完全に悪いと云ふものはないと思ふのであります。例へば不良少年にしても朝から晩まで、する事なす事悉く不良と云ふ者はない。皆さんの中には司法保護司などやつて居られる方もありませうから御存じでせうが、学校の成績は好いが手癖が悪いから不良少年の中に入つた者もある。又手癖は悪くはないが品行が悪い、さう云ふ者がある。さう云ふ者は其の不良の点だけ直させれば、後は良いのであるからスクスク良くなつて行くのであらう。之と同じく、此の教会では斯う云ふ事があつた、此の点がいけないと思つたら其の点だけを止めさせろ、他は良いからドンドンおやりなさい、と云ふ風にしたら、良い方にばかりスクスクと伸びて行くでありませう。監督規足はさう云ふ風な仕組にやつて居れば宜い。本法の第十六条、第十七条の如くなつて居れぱ、さう云ふ不便もなくて済むのであります。之に反して現行の規定は事件が大きくなつてから、一斉検挙とか結社禁止をやるので、ちよつと二葉の内に悪を摘取る細工の出来ない事になつて居つて甚だ遺憾に堪へない次第であります。此の点は要するに監督規定の不備不完全の咎〈トガ〉である、須く〈スベカラク〉宗教団体法を作つて万〈バン〉遺漏なきを期すベきである――と云ふことが朝野に叫ばれて居たのであります。
 第七の理由は,宗教結社に関する規定であります。只今宗教結社は全国に千二三百はあります。勿論之等は悪いものばかりではない、健実にして国家社会に相当貢献して居るものもあります。之等に関する根本法規を定めることは必要であります。又更に今回の事変〔支那事変〕に依つて愈々日本は新東亜建設と云ふ大事業に着手し、日本と云ふ島国と大陸とが非常に密接な関係を持つて来たのでありまして、軈ては外来宗教が日本に渡来して来ることは必至であります。之等に対して宗教行政上相当の用意がなくてはならない。然るに現在はそれがない。それ等に対する欠陥も補はなければならぬ。斯う云つたことも立法の必要性として重要なものゝ一つであります。
 右の外事務的の立場からすれば色々と申上げたい事もありますが、余り諄々しく〈クドクドシク〉なつて御迷惑と存じますから止めて置きますが、ともかくも斯様な色々な事柄が理由となつて、朝野の先輩が多年に亘つて之に没頭し、硏究に硏究を重ね、努力に努力を積んで来られたのでありまして、真に之等の過去の業績が実つて茲に前後三十七箇条の法律とはなつた次第であります。

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