![]() | ビッグコミック スピリッツ 2014年 6/2号 [雑誌] |
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小学館 |
「美味しんぼ」問題に関する編集部見解が「ビッグコミック・スピリッツ」最新号(6/2日付第25号)に出たので読みましたが、結構まともな内容でした。少なくともマスコミ報道にある様な「政府に屈服」というイメージとは全然違います。「風評被害を気にする余り、少数意見の封殺に繋がる様な事があってはならない」という事もちゃんと書かれていました。編集部に寄せられた意見の紹介も結構バランスが取れていた様に思います。「美味しんぼ」肯定派・否定派それぞれの見解が紹介され、読者が比較検討する際に非常に有益な教材になり得ると感じました。
「美味しんぼ」の内容についても、過去に色々問題があった事も知りました。「美味しんぼ」に書いてあるからと言って、決してそれだけで信用してはならないと思います。それでは「お上の言う事は全て正しい」とする立場の単なる裏返しに過ぎなくなってしまいます。たとえ、漫画を描くに当って原子力の事を色々調べたとしても、当該分野については門外漢にしか過ぎない漫画家の描いた作品ですから、そこには誤った記述や舌足らずな表現もあるかも知れません。でも、「福島の真実を明らかにしたい」という目的さえ明確であれば、「鼻血」描写については許容範囲だと思います。流石にその次の号の「大阪のガレキ焼却で住民被害」表現については、私も作者の勇み足だったかも知れないとは思いましたが。
でも、それならそれで、国や大阪府・市も、科学的データを出して反論すればそれで済む話です。作者の雁屋氏も、それに対して意見があるならまた反論すれば良い。それを見て正否を判断するのは、あくまでも読者であり有権者なのだから。それを、まるで「寝た子を起こすな」と言わんばかりの、風評被害を口実に頭ごなしに封殺しようとする今の風潮は明らかに行き過ぎです。そんな事では何も言えなくなってしまいます。また、いくらそんな事をしても逆に余計に不信を招くだけです。
当該の編集部見解は「ビッグコミック・スピリッツ」HPにも掲載されていてネットでも読めますが、今後また同種の問題が出てきた時にも非常に参考になると思いますので、当ブログでも参考資料として全文を保存しておく事にしました。「同種の問題」というのは何も原発問題だけに限りません。かつての水俣病国賠訴訟やイラク日本人人質事件の時にも同種のバッシングがはびこりました。今の生活保護バッシングも根底にある構造はみな同じです。生保バッシングやヘイトスピーチ垂れ流しで民主国家としての信用を思いっきり地に貶め、鼻血なんかとは到底比べ物にならない程の風評被害をまき散らす輩に、「福島差別」を云々する資格なぞこれっぽっちもありません。各人がその様な不当なバッシングを跳ね返しメディア・リテラシーを養って行く上でも、この編集部見解から学び取れる事は多々あるように思います。
編集部の見解
このたびの「美味しんぼ」の一連の内容には多くのご批判とご抗議を頂戴しました。多くの方々が不快な思いをされたことについて、編集長としての責任を痛感しております。掲載にあたっては、福島に住んでいらっしゃる方が不愉快な思いを抱かれるであると予測されるため、掲載すべきか検討いたしました。
震災から三年が経過しましたが、避難指示区域にふるさとを持つ方々の苦しみや、健康に不安を抱えていても「気のせい」と片付けられて自身の症状を口に出す事さえできなくなっている方々、自主避難に際し「福島の風評被害をあおる、神経質な人たち」というレッテルを貼られてバッシングを受けている方々の声を聞きます。人が住めないような危険な地区が一部存在していること、残留放射性物質による健康不安を訴える方々がいらっしゃることは事実です。
その状況を鑑みるにつけ、「少数の声だから」「因果関係がないとされているから」「他人を不安にさせるのはよくないから」といって、取材対象者の声を取り上げないのは誤りであるという雁屋 哲氏の考えかたは、世に問う意義があると編集責任者として考えました。「福島産」であることを理由に検査で安全とされた食材を買ってもらえない風評被害を、小誌で繰り返し批判してきた雁屋氏にしか、この声は取り上げられないだろうと思い、掲載すべきと考えました。事故直後盛んになされた残留放射性物質や低線量被曝の影響についての議論や報道が激減しているなか、あらためて問題提起をしたいという思いもありました。
今号掲載の特集記事には、識者の方々と当事者代表である自治体の皆様からも厳しいご批判をいただいております。医学的、科学的知見や因果関係の有無についてはさまざまな論説が存在し、その是非については判断できる立場にありません。山田 真先生から頂戴した「『危険だから逃げなさい』と言ってもむなしい」というお話には胸を衝かれました。遠藤雄幸村長の「対立構図をつくってはいけない」というお話からは、「美味しんぼ」についてツイッター等で展開された出口のない対立を思いました。識者の方々、自治体の皆様、読者の皆様からいただいたご批判、お叱りは真摯に受け止め、表現のあり方について今一度見直して参ります。
最後になりますが、避難指示区域からの長期避難で将来に不安を覚える方々、自主避難によって生活困窮に陥ったり不当な非難を浴びたりしている方々への一層の支援は必要ないでしょうか。健康不安を訴える方々が、今なおいらっしゃるのはなぜでしょうか。小さなお子さんに対して、野呂美加様のお話にある「保養」を、もっと大きな取り組みとすることは考えられないでしょうか。このたびの「美味しんぼ」をめぐる様々なご意見が、私たちの未来を見定めるための穏当な議論へつながる一助となることを切に願います。
「週刊ビッグコミックスピリッツ」編集長 村山 広
(追記―関係者の声より)
上記「編集部の見解」(以下、見解と略す)の中で言及された3名の関係者の意見もこちらで紹介しておきます。但し、概して非常に長文の意見が多い為、ここでは「見解」で触れられた部分のみの紹介に止めます。それぞれの意見については当該雑誌の公式HP(記事本文のリンクからアクセス)にもその全文が掲載されていますので、そちらも併読していただければ助かります。
山田 真(医師、子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク代表)
(前略)
「避難すべき」と言うのは簡単ですが、現実には難しい問題を抱えている。私も2011年の終わり頃までは避難すべきと言っていましたが、今、福島では避難したいけれど様々な事情で避難できない人が多いから、その人たちに「ここにいるのは危険だから逃げなさい」と言ってもむなしいのです。国に対して避難したい人が避難できるよう要求し、また避難先で安心して暮らせるよう条件整備をすることを求め、戦っていく必要があります。
(後略)
遠藤雄幸(川内村村長)
(前略)
県外に避難した住民が、「福島は危ないから避難しろ」と言う。戻った住民が、「故郷を捨てたのか」と問う。「避難する・しない」、「戻る・戻らない」の対立構図をつくらないために、善意の押し付けや過激な干渉はできる限り控えてほしい。そこで生活している多くの住民がいること、避難を余儀なくされている村民がいることを忘れないでほしいと思います。目に見えない放射線は、仲が良かった隣近所の人たちを仲違いさせ、親子・夫婦関係までギクシャクさせる。コミュニティーまで崩壊させる。被災者同士がそれぞれ批判し合う姿に心が痛みます。
(後略)
野呂美加(NPO法人「チェルノブイリへのかけはし」代表)
(前略)
ベラルーシでは、年間総被曝量が1ミリシーベルトに満たない汚染地域でも内部被曝を鑑みて、子どもたちを国家の事業として保養に出しています。保養させた子どもたちの尿検査をすると、体内の放射性物質が著しく減少します。まずは、国民の健康診断をして、数年間は管理をすべきだし、旧ソ連にならって、せめて子どもたちを安全な地で保養させたり、安全なものを食べさせたりするべきだと思います。
(後略)