この前の日曜日に沖縄県知事選挙の投票がありました。そこでは4人立候補していましたが、事実上は仲井真弘多(なかいま・ひろかず)と翁長雄志(おなが・たけし)という2人の候補の争いでした。
知事選では普天間(ふてんま)米軍基地の辺野古(へのこ)移設が争点となりました。あの狭い島の中に全国の米軍基地の75%が集中する沖縄の中でも、特に沖縄本島中部にある普天間基地は、住宅地のど真ん中にあって、住民は騒音や米兵の基地犯罪に悩まされていました。そもそも沖縄の米軍基地は、その大半が、米軍が戦争中に住民を追い出して、「銃剣とブルドーザー」で無理やり造った物です。基地問題の解決も、本来なら無条件返還しかあり得ないはずです。ところが、「国民の事より米国第一」の日本政府は、それを巧妙に北部東海岸の辺野古への移転話にすり替え、県民同士が対立する構図に仕立て上げてきたのです。
今の沖縄県知事の仲井真も、ついこの間まではそんな移転話には反対していました。ところが、年間3千億円だか何だかの経済振興策を政府から示された途端に、欲に目がくらんで賛成に寝返ってしまったのです。その仲井真の裏切りに怒ってストップをかけたのが翁長さんです。
元・那覇(なは)市長の翁長さんも、元々は仲井真と同じ自民党の政治家で、仲井真の選挙参謀も務めた事のある人物でした。しかし、今回はさすがに「金で県民の魂を売り渡すような真似は出来ない」と、市長や自民党幹部の職を投げ打ってまで今回の知事選挙に出馬し、革新陣営からも支持を得て、見事当選を果す事が出来ました。
今まで散々「沖縄は基地が無ければやって行けない」と言われ、少なくない県民もそう思い込まされてきました。ところが実際は、基地では雇用はほとんど生まれず、住宅建設や工場誘致も基地がある為にほとんど進みませんでした。鉄道もまともに敷く事が出来ず、最近になってようやく那覇市内にモノレールを敷く事が出来ただけでした。その為に、県民は島内を移動するだけでも、バスに何時間も揺られなければなりません。道路も年がら年中渋滞です。よく沖縄は車社会だと言われますが、本当は鉄道が無い為に、無理やりそう仕向けられてきただけだったのです。
米軍基地は迷惑施設でしかなかった。基地依存と言うのも、本当は基地交付金(迷惑料)に「シャブ漬け」にされてきただけだった。今やこの認識は、沖縄県内では従来の革新陣営だけでなく保守陣営にも広く浸透しています。だから、普天間基地の県内(辺野古)移設なんかではなく県外・国外移設を求める建白書(意見書)に、県内全市町村長が署名したのです。そして今回の知事選挙でも、元々は保守だった翁長さんが、保守・革新の枠を超えて多くの県民から支持され、ついに裏切り者の現職知事を下す事に成功したのです。
以上が、この前の日曜日に行われた沖縄県知事選挙の大まかな構図です。しかし残念ながら、大阪ではこの選挙に対する関心は余り高くありません。ウチの会社でも、沖縄出身者が結構いるにも関わらず、余り話題になる事はありませんでした。「所詮は大阪から遠く離れた沖縄の選挙だ」「尖閣問題や中国の領海侵犯に備える為にも米軍基地は必要だ」「それに反対するのは沖縄のエゴでしかない」というのが、選挙に無関心な大阪の有権者の、大方の本音だろうと思います。
でも、ここでよく考えて欲しいのです。普天間基地の面積は約4.8平方キロ。大阪で言えば西成区や天王寺区とほぼ同じ面積です。ウチの職場でも、西成や天王寺・阿倍野辺りから通って来るバイトも多いでしょう。大阪の街中にそんな基地が居座り、昼夜たがわず騒音をまき散らし、米兵があちこちで強姦・強盗事件を引き起こしていたとしても、同じ事が言えるでしょうか。同じ様に我慢できるでしょうか。
実際に沖縄では、授業中の小学校に米軍機が墜落して、多くの生徒や周辺住民が亡くなる事故が起きています。当時は米軍占領下で補償金も雀の涙ほどしか出ませんでした。沖縄が日本に復帰して21世紀に入ってからも、沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落したりしましたが、この時も県警ですら治外法権の壁に阻まれ現場検証すら出来ませんでした。米兵によるレイプや強盗事件も今まで数え切れない位起こっています。過去には米兵による信号無視や当て逃げ・ひき逃げ事件の続発に怒って、コザ(現在の沖縄市)で暴動が起きたりもしました。1995年の少女暴行事件が起った時も、全県ぐるみの抗議運動に発展しました。沖縄は今も米軍の植民地のようなものです。それに日本政府も加担して来たのです。
辺野古移設というのは言わば、その大阪の街中にある米軍基地を、同じ大阪の郊外に移設しようというだけの話なのです。例えば、私の住んでいる高石市も、沖合の臨海コンビナートを除けば、その面積は普天間基地と同じ大きさになります。そんな物を高石に移設しようという話に、大阪市内からは基地がなくなるから良いと言って賛成するのですか?西成や天王寺にあって困る物は、高石にあっても困るのです。この問題を解決しようとするなら、「大阪の外に持って行け」という話にしかならないでしょう。(左下が普天間飛行場の全景、右下が辺野古移設図)
それでもピンと来ない人という人には、もっと分かりやすい例えで説明しましょう。仕事場でいつも使っているカートがあるでしょう。商品を積むのには必要なカートですが、それを仕分けた後のカートの片付け場所を確保するのに苦労した事はありませんか。ただでさえ狭い作業場で、「そのカート邪魔だ!そっちへやれ!」「いや、お前こそ、そっちにやれ!」と、バイト同士で言い争いになった事も少なくないはずです。
何故そうなるのか。会社が備品の管理や整理もろくにせずに、その場の成り行き任せ、バイト任せにしてきたからでしょう。だったら、バイト同士でもめたりなんかせずに、会社の責任でカートの片付け場所を確保させるのが筋ではありませんか。
それでも、カートはまだしも作業に必要な物ですが、米軍基地は完全に迷惑施設でしかありません。「尖閣問題や中国の領海侵犯に備える為にも米軍基地は必要だ」と言いますが、そう言ってる自民党や維新などの政治家が、何故別の場所では、アベノミクスだの原発再稼働だのTPPだの、カジノだのリニアだのに現(うつつ)を抜かしているのでしょう。本当に中国や北朝鮮が攻めてくると言うのなら、そんな物に現を抜かしている暇なぞ無いはずです。
本当は「国を守る」為ではなく「自分達の利益や利権を守る」為に、「米軍基地は必要だ」「お前らはつべこべ言わずに、ただ黙って従っておれば良いのだ」「それでお前らがどうなろうと俺の知った事か」というのが、支配者の本音ではないでしょうか。
本当に「国を守る」つもりなら、放射能垂れ流しの原発や、農業や保険・医療を外国のハゲタカファンドに売り渡す様なTPPには、断固反対するはずです。翁長さんが辺野古移設に反対するのも、それでは沖縄は守れないと思ったからでしょう。これこそが真の「保守派」の取るべき態度ではないでしょうか。
確かに、尖閣問題や中国の領海侵犯について備える事は必要です。しかし、それは今でも海上保安庁の巡視艇や自衛隊の哨戒機で充分間に合っています。後は外交交渉で中国と話し合えばそれで済む話です。それを、わざわざ県民同士を争うように仕向けてまで、県民の大多数が反対する辺野古移設をゴリ押しするのは何故なのか。我々の事を「使い捨ての駒」としか見なしていないからではないですか。それにまんまと乗せられて、いつまでも「カートの押し付け合い」みたいな愚を繰り返すのは、もういい加減止めにしませんか。