脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

読後感想文ーALC REPORT復刊3号『よみがえる言葉』

2022年09月22日 | エイジングライフ研究所から
読後、不思議な感覚に包まれたことを記録しておきたいと思います。(写真は、先週行ったカワヅー体験カエル館のカエルたち。何の関係もありません)

もう40年くらい会っていない友人と、今夏の暑い日に久しぶりに再会しました。闘病なさっているということは耳に入ってきていましたが、ご本人から「悪性リンパ腫にかかっていたんです」と聞いたときには、後に続ける言葉がありませんでした。
ところが、「特別のことを話している」という感じが全然ありません。
「2021年5月2日。先立つ2月ごろからの体調不良の原因が「悪性リンパ腫」という診断が下されたこと。2022年5月2日。ちょうど1年後のこの日に闘病記録をまとめ始めたこと。
公にするには個人的すぎるとも思ったが、昨今悪性リンパ腫の罹患率が高まっていることを聞くと、自分の受けた治療法をまとめると何かの役に立つだろうと、友人たちが勧めてくれた言葉に従った」とお話ししてくれました。
激動の一年を振り返るときに、言葉を整理して文章にされたはずです。ことばを整理するということは、気持ちも整理することにつながると思います。お気持ちも見事に整理されたからこそのごく普通の話しぶりだったに違いないと感じました。
そして、完成されたばかりのご本をいただきました。

そのご本を読んでみると、大学時代ともに行動した友人4人が、卒業後半世紀近くたってALC REPORT復刊版として上梓したということがわかりました。その3号。

目次には興味がそそられる題が並んでいました。
でも、子どもの学芸会を見に行った時のように、まず「悪性リンパ腫・闘病と治療の記録」を読みます。コロナ禍ですから、メールのやり取りが頻繁でその中に詳しい記録が残っていて、それをもとに書いてありますから臨場感あふれる記録です。
じつは、友人は教育学専門の大学教授です。この闘病記録を書いた動機がとても納得できるので前文に書かれていた文章を転記します。
「私はこれまで市井に生きる人たちの「生きられた歴史」を研究の対象としてきた。特に青年期の自己形成という研究領域では、先人の日記や日常の記録を研究の対象にしてきた。~略~ 私という人間によって「生きられた歴史」を残しておかないというのは、仁義にかけるというものだ」そして記録の媒体が電子メールという点にも意味があると前置きしてありました。
正確なというよりも赤裸々な記録になるにちがいありません。

確定診断に至るまでの期間は、不安感がそそられ私などは「患者さんが不調を訴えているときに、それを支えるデータがなければ病気ではないことになるの!」とちょっと腹立たしかったりしつつ、不調の原因を突き止めていく過程は、推理小説みたいです。
症状も検査法もそして治療の道筋もよく理解できました。高カルシウム血症の怖さ。脾臓の働きや検査法。リンパ腫の種類は脾臓を調べなければわからないこと。一番素晴らしい情報は、私が考えていた以上に「悪性リンパ腫」は克服されうる病気なのだということがわかったことです。将来的にはさらに有効な薬ができてくるでしょうから、早くに診断をくだしてもらうことが大切ということになりますね。この闘病記録はその役目も果たせます。

一昔前には、本人へのガンの告知はしないものでした。告知なしでつまり正体を知らないままに立ち向かうことは、私にはかえって難しいことだと思います。友人もすべての説明を受けて、一つずつ勉強をして(今まで体のことを知らなさ過ぎたという述懐がありました)理解したうえで必要な治療を続ける。これは私たちのような戦後教育を受けてきた人たちにとって当たり前のことではないでしょうか?
去年の体験です。ガン患者になり損ねた話
もちろん、衝撃が強すぎる人もいますから、マニュアル化してしまうことには問題もあるでしょう。

実はこの4人は東大の同期生。1968年に4人で沖縄を旅したところがALCの原点かもしれません(詳しいことは知らないのです)。
友人はその一人で、前述したように教育学の大学教授。
もうお一人は歴史学の大学教授。
もうお一人は週刊朝日の敏腕記者(少なくともお若いころには)。
もうお一人は編集者。著作も多数あるようです。
知的な世界に身を置いた方々には間違いないのです。その意味では別の環境で生活をしてきた私とは重なるところはありません。子育てを楽しみ、その後少しずつ心理関係の仕事を始めた珍しい経歴の私です。
でも、この不思議な読後感は何なのでしょうか?
私も、あの時代の空気を知ってる…あの時代の私に出会ったような気がする…
社会が持っている右肩上がりの印象が強く、私なぞは希望を感じつつ単純にまじめに生活をしたものですが、このメンバーの方々はそれだからこそ、「それでいいのか?」という自問の苦しさを感じ、それぞれのお仕事を深めていかれたのではないでしょうか。

『「史料のなかの民衆の声」に耳を澄ます』:江戸時代の史料を現代語訳したうえで、内容を詳説されたものですが、登場人物が動き出して時代劇を見ているようなおもしろさがありました。
『JAL123便はなぜ墜落しなければならなかったのか?』:ジャーナリストはこのように物事を突き詰めていくものなんですね!全く触れられないからこそ、そこに事の真実があるのかもと思わされました。
『エーゲ文明に魅せられたOEさん』:編集者が一目置く市井のエーゲ文明研究者。徹底した研究の紹介もさることながら、OEさんへの愛情が感じられました。小中学校の同期生なのですね、納得。

巻末に四人四様のエッセイが掲載されていて、そこからも私の知らない著者の肉付けができた気がします。『1968年ALC沖縄の旅をめぐる断想』『THE BEATLESとALC』からは、それぞれの著者がその青春を振り返り、その時代だからこそ感じることができたことに、50年の時を経て思いをはせています。環境も対象も違いますが、私も当時を思い起こすと同じ風が吹いてきた気がしました。

ビートルズの武道館公演、行きました。大学1年生でした。どうやってチケットを入手したかは全然覚えがありませんけれど。
そこから半世紀の余。息子と一緒に去年沖縄へ行き、沖縄を満喫し辺戸岬も訪れました。見るものも思うことも食べることも満喫した旅。その備忘録を沖縄日記(1~9)としてブログにまとめました。
このご本の書名は「よみがえる言葉」。
言葉がよみがえるときに記憶もよみがえり、それをまた言葉を使って伝えることができる。人間も、生きるということも素晴らしいことだと思いました。
たしかに私もこの半世紀を生きてきたのですねえ…

(辺戸岬。写真で見ると危険極まりないようですが、安全確保の上撮影中)

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