自分史 物怖じしない国際人を育てるヒント集

近現代史に触れつつ自分の生涯を追体験的に語ることによって環境、体験、教育がいかに一個人の自己形成に影響したか跡付ける。

閔妃暗殺の背景/列強によるアジア分割

2019-12-21 | 近現代史 日清戦争

  1893.7.8  Le Petit Journal  

列強によるパイ分割風刺画(~1995年)
【清】  お手上げ状態 

【イギリス】〔ヴィクトリア女王〕   インド、ビルマを領有しアフガニスタンを保護国化し、清においては香港島と九龍半島南部を領有するほか最大の利権を獲得していたが、ロシアのユーラシア大陸全域での南下を恐れていた。インドを領有するイギリスはアフガニスタンを、日本は日本海と朝鮮を、それぞれロシアの脅威から絶対に防衛すべき接壌としていたから、やがて対露日英同盟を結ぶことになる。
【ドイツ】〔ヴィルヘルム2世〕 アフリカ領有を二分するイギリスとフランスに対抗して遅ればせながらアフリカに植民地を獲得し、中東、清への進出をうかがっている。
ロシア】〔ニコライ2世〕   ユーラシア大陸の全接壌で南下の脅威を関係国に与えた。清から外満洲を獲得し沿海州とし軍港都市ウラジオストクを築いた。1891年フランス資本を導入して着工したシベリア鉄道は最終的には首都と浦塩を結ぶ大プロジェクトだった。
日本の恐露熱がいっきに亢進し「大陸浪人」が釜山、仁川等の開港地に押し寄せた。我故郷・草野出身の曹同宗僧職・武田範之(幼名 沢半次)もその一人である。釜山で内田良平らと天祐俠を旗揚げし対清共闘を訴えるため南接東学軍に接近した。日清戦争が始まると結局別れて日本軍に合流した。

【フランス】〔象徴、マリアンヌ〕   1893年ベトナム、カンボジアにラオスを加えた仏領インドシナを版図におさめた。1894年までに露仏同盟を完成し仮想敵国ドイツに備えた。
【日本】〔象徴、サムライ〕   予期せぬ大勝の結果、清国から遼東半島、台湾、澎湖諸島を割譲され、2億両の賠償金を獲得した。それゆえ矛盾と野望がふくらみ、引き返し不可能の戦争への道に入ってしまった。それが認識されるのは戦後である。残念ながら歴史に先立つものはカネであって知恵ではない。
【アメリカ】 1890年の国勢調査に基づきフロンティア(未開と文明の境界線)が消滅したと宣言した。それ以後「野生のインディアン」はいない、とされた。国と軍の関心はカリブ海と太平洋に向かった。1893年、砲艦と海兵隊の援護の下、アメリカ人移民団がクーデターでハワイ王国を乗っ取った。次の標的はフロリダの目と鼻の先にあるキューバ(スペイン領、砂糖資源)であった。
アメリカは、キューバの独立(独立革命軍指導者ホセ・マルティの戦死は1895年5月)を支援するという名目で介入し1898年米西戦争を仕掛け、フィリピンとグアム領有に至る。米軍のキューバ上陸点・グアンタナモは今なお占領が続いている。

日清戦争に対して列強は概して傍観的だった。小国日本を侮っていた証しでもあろう。日本が朝鮮の前近代的社会に、開国に続いて文明開化においても風穴をあけてくれるならば、朝鮮の近代化は商品と資本の共通市場として列強各国にも利益をもたらすのだから、介入するには及ばない、というわけだ。
なかでもイギリスにとっては、日本が死に体の清に代わって朝鮮を勢力圏におさめることは、対ロシア戦略上望ましいことだった。アメリカの関心は市場開放にあり清と朝鮮の門戸開放を求めていた。

日本が清から勝ち取った結果は主として地政学上列強の利害とぶつかった。遼東半島先端の旅順港と大連は太平洋への不凍港を求めるロシアの南下政策の最終目標であるばかりでなく、黄海と日本海を制する「管制高地」である。
極東に植民地がほしいドイツにとっても遼東半島と山東半島はすくなくとも他国の戦略拠点であってはならない。山東半島に目を付けている。
露仏同盟と独が連携して三国で日本に遼東半島を清に返還するよう干渉し、代わりに賠償金の大幅な増額をすすめた。その結果日本が得た賠償金は2億3千万両(国家予算の4年分)に膨れ上がった。清は利権譲渡を代償に列強から借金して支払うほかなかった。清はさらに弱体化した。

 メロンケーキ(清・満洲・朝鮮)を囲む独仏露日米英

列強による利権「瓜分け」(1895~98年)
【ドイツ】山東省を勢力圏に、膠州湾を租借地にし青島を建設した。ほかに山東鉄道敷設権・鉱山開発権獲得。
【ロシア】満洲とモンゴルを勢力圏に、旅順と大連を租借地にし、それぞれを東洋艦隊の基地、大陸進出の根拠地にした。満州里~浦塩間・東清鉄道、ハルピン~旅順間・南満州鉄道(のちの満鉄本線)の敷設権獲得。
【イギリス】
長江流域を勢力圏に、九龍半島北部と山東半島北東端の威海衛を租借地にし、威海衛に海軍基地を築いた。香港~広州間・広九線、上海~南京間・滬寧線koneisenの鉄道敷設権獲得。
【フランス】雲南、広東省、江西省を勢力圏に、広州湾を租借地にした。安南鉄道の雲南延長権獲得。
【日本】領土化した台湾の対岸福建省を勢力圏におさめた。日本は独立を宣言して抗戦する台湾住民を過酷に武力鎮圧
した。
青天霹靂のごとき三国干渉の結果は日本に亡国の危機を感じさせた。遼東半島を含めて満洲がロシアの勢力圏になり、朝鮮でも後退を余儀なくされつつある。
三国干渉と時を同じくして英米独露が発した四国干渉により日本が前年獲得した京釜・京仁両鉄道の敷設権が頓挫した。ちなみに北接農民軍を鐘谷で全滅させた部隊は討伐隊の応援を得た鉄道敷設測量隊の警備隊であった。
【朝鮮】日本が三国干渉で掣肘を加えられると朝鮮政府内の力関係に変化が起こった。高宗の実父大院君を摂政とする親日政府と高宗+高宗の后との力関係が逆転した。国王と王后は主権回復の期待をロシアにかけた。復活した高宗と閔氏の力の根源は閔妃bimpiである。国王を背後で操る黒幕・王后を取り除かねば朝鮮をめぐるロシアとの暗闘の先が危うい。閔妃暗殺、につづく。