この橋を渡れば

「この橋を渡れば」

この橋を渡れば　君の家まで後わずか
眠い目を開いた　遅い朝日
赤い身なりの妖精が　川の流れに踊る
僕は自転車に　一人　息を切らして

少しでも早く　君の顔が見たい
短いはずの橋も　随分と長い
急ぐから　急な横風に
バランスを崩し　ブレーキをかけて

飛行機が真っすぐに　空を横切る
まだ引っかき傷のない　広いキャンパスに
白い線をゆっくりと　引いてゆく

色づく街路樹の　トンネルをくぐったら
もうすぐに　君を誘う
足に力を入れて　一緒に坂道を漕ごう

風を切る頬が　少し冷たい
寒がりの君は　予想通りの文句を言って
けれど　勢いが必要だ
今日を　漕ぎ切るために
その先にある明日に　届くために
空元気も必要なんだと　心の中でうそぶく
唇をとがらせた君の顔も　一興に思いながら

あちらこちらから　おはようの声が
聞こえ始める　まだ眠い声
甲高い声　笑った声
あるいは　消えてしまいそうな声も
それぞれの　表情で今日を迎える

人を詰め込む　通勤電車は
暗いトンネルに　飲まれて消えた
ああ　何てもったいない
何気ない朝だけれど　こんなにも爽やかで
気持ちの良い　朝なのに
また暗闇に　潜り込むなんて

息を切らしながら　自転車を漕ぐ
揺れている　君の黒髪を見る
毎日を　楽しんでいる