秋のベンチに 【詩】

「秋のベンチに」

あなたの肩に
秋の午後の陽射しが手を伸ばす
まるで背後から
優しく抱き締めるように
あなたは守りたくなる人だから

その透き通るしなやかな腕と比べると
この腕は節くれ立って
握り締めたこぶしを
膝の上にのせている　そっと

あなたの瞳が
時折きらきらと光るのは
秋のせせらぎが胸を流れるから
そこに触れる陽射し
あなたはまた一つ智恵に色づく

高い空には
まるで草笛が響くようだ
ひとりでに胸が震える
そこに唇を当て共鳴をすれば
驚くばかりに胸は高鳴って
そんなにも郷愁に鳴り響いて
僕はどこかへ帰ってしまいたい人

空の広さは何を物差しに測ろう
しいて言うならば　雲一つ　雲二つ分と
けれど悪戯に姿を変える雲だから
何の尺度にもならなくて

立ち並ぶのっぽの木々は
秋の気配にうっとりと色づいて
僕の視線に気がつく気配もない

あなたを見れば
秋の陽射しが愛おしそうに
黒髪を抱いたままだ

秋の午後にただ
陽射しを楽しみながら座る
どこにでもある一こまだけれど
あなたと当たり前のように
ベンチにいられることが嬉しい

傍らに息づく人を感じる午後
穏やかな気持ちのままに
青空に吸い込まれている

肌に風が絹を羽織るように優しい
この安らかなひとときを
何の強がりも言い訳もなく
ただあなたと黙って座る

そんな　時間が本当に
もどかしいぐらいに　ゆったりだ
あなたはきっと　時の操り人