電車のホームには、無防備な人が大勢立つ。
東急つきみ野駅では、線路沿いに張ったワイヤで、乗客の転落を防止する新型のホーム柵を設置した。
こういうのを、ホーム柵と考えるかホームドアと考えるかによって、呼び名だけでなく、構造がどこか違いそうな気もする。
ホームに10メートル間隔で立てた支柱の間に、1.36メートルの高さまで張ったワイヤを、電車が到着するときにせり上げて乗降させる。
何か半端なこの高さに、どういう意味があるのかはわからない。
日本人の体のどこかの平均高さだろうか、というのは勝手な想像である。
電車が近づくと、柵から離れるよう放送が流れて、停車直前に電子音が鳴り、3.5秒でワイヤが上がる。
寸法も時間も、きざむのが設計者のお好みらしい。
「扉型のホームドアと比べて列車の停止時間が短く、運行に影響せずに最大限の安全を確保できた」とご自慢のようである。
扇型のホームドア、そんなものがあるのだろうか。いくら何でも、電車が来ますドアを開けますからどいてくださいバタン、はないだろうと思っていて、小刻みに折りたたむのも扇型であることにここで気付く。
扇形ではなく扇型なのだ。こういうのは文字をよく見ないとわからない。
出勤時刻をずらせることなど思いも及ばなかった時代には、線路に飛び降りて隣のホームにすばやく這い上がる人はいても、ゲームや交信に気をとられて落ちるボケはいなかった。
人間がだんだん世話が焼けるようになってくると、安全第一のハードルもせり上がってくる。
智恵の偏った人間たちは、一方でむやみに便利なものを作り出し、別のことでは、ばかばかしいような不便を作り出している。
安全の神様もご苦労様なことである。