この間、「南部地区の、戦没者の血が染み込み、遺骨が混じった土砂を辺野古の埋立に使うな!」という声が高まっている。
しかし、昨日の参議院本会議で菅首相は、「採石業者において遺骨に配慮した上で土砂の採取が行われる」と答弁した(2021.1.23 沖縄タイムス)。南部地区から辺野古埋立のための土砂採取を行うことを事実上、認めたものだ。
このブログでも何度も指摘してきたが、糸満市米須の「魂魄の塔」横では、昨年9月、熊野鉱山の施業案が認可され、伐採等が始まった。しかし、森林法、自然公園法、そして農地法違反行為等が指摘され、昨年11月から工事は停止している。
しかし、今、事態は大きく動こうとしている。
(写真:沖縄ドローンプロジェクト提供)
今日の琉球新報によれば、糸満市が、業者から出されていた自然公園法に基づく開発行為の届出書を、市としての意見書を付けて沖縄県に送ったという。
一帯は、自然公園法に基づく沖縄戦跡国定公園の「普通地域」に指定されており、土地の形質変更のためには、事前に知事に届出なければならない。昨年、業者は県が届出書を受理する前に工事に着手したため、県は中止を指示した。しかし、届出書を再提出させるということで処理してしまったのだ。
県が届出書を受理すれば、1ケ月経てば、業者は開発行為に着手できる。県の担当者は、「内容が整っているかどうかを確認し、受理する流れになる」と説明しているという(2021.12.23 琉球新報)。このままでは届出書が受理され、土砂採取が始まってしまう。
しかしこのような県の見解は納得できない。自然公園法第33条2項は次のように定めている。
「都道府県知事は国定公園について、当該公園の風景を保護するために必要があると認めるときは、--- その風景を保護するために必要な限度において、当該行為を禁止し、若しくは制限し、又は必要な措置を執るべき旨を命ずることができる。」
下は、国道331号線の米須から、魂魄の塔に向かう道路からの熊野鉱山付近の写真である。正面の丘陵が、平和創造の森公園(第2種特別地域)。熊野鉱山で土砂採取が始まればさらに無惨な光景となってしまうだろう。
沖縄戦跡国定公園は、「第2次大戦における日米両国の激戦地として知られている本島南部の戦跡を保護することにより、戦争の悲惨さ、平和の尊さを認識し、20万余りの戦没者の霊を慰める」ために制定された(沖縄県のホームページより)。
熊野鉱山で土砂採取が始まれば、この付近の風景は著しく破壊されてしまう。沖縄県は、自然公園法第33条2項に基づき、開発行為を中止させるべきである。
<追記>
糸満市も、県に「①土砂採掘前の遺骨収集を求めること、②自然公園法に基づく風景の保護への配慮を求めること、③採掘後は埋め戻しや緑化など、現状に限りなく近づける復旧を求めること」という意見書を提出したという(2021.1.23 琉球新報)。
このブログでも再三、紹介してきたが、八重瀬や糸満の鉱山では、採掘後の埋め戻しもされておらず、巨大な窪地が残ったままのところが多い。そもそも、土砂を辺野古に搬送してしまうと、埋め戻しには何を使うのか?
なお、菅首相の「遺骨は業者が配慮」という説明も認められない。戦没者の遺骨採取は、「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」でも、「国の責務」と明記されている。国が何もせずに、業者に全てを任せることは許されない。